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次の日の朝、昨日食べ忘れたロコモコ弁当にアボカドたっぷりの、昨日の夜何も食べなかったせいでお腹が空いたのかエビの入ったクリームスープ、デザートにラスベリーと苺の入ったヨーグルトが用意されていた。
朝からこんなに食べられないのに、鼻歌交じりでアボカドの種をスプーンでくりぬく彼に何も言えなかった。
一矢くんの方が朝は早いのに。
今日は無理しないでって、私には朝食ができるまでベットで寝かせてくれていた。
ネクタイが汚れないように胸ポケットに入れて、サラダを取り分ける一矢くんは朝から楽しそうなのが分かる。
「華怜ってさ」
「ほい」
見とれていたなんて言えないので、慌ててアボカドを口の中に放り込んだ。
「決まった休みの日ってあるの?」
「うちは日曜祝日も出勤だけど、予約の空きとか見て週に二日ちゃんと休みがあるよ」
「そっか。俺も日曜は確実に休めるんだけど、平日は休めないなあ。でもなるべく休みを合わせたいしなあ」
私の方が結構余裕があると思う。残業とか、イベント前の忙しい時期とかそんなにないし。
でも毎週土日に休めるわけは、流石にない。
「休みがあったら、一緒に買いに行きたいものがあるんだけど」
「えー、指輪の次はなに?」
高いものは駄目よって言うと、珈琲を飲んでいた一矢くんの口がにたりと歪んだ。
これは間違いなく悪い顔をしている。
「なに?」
「キングサイズのベット。大きいのってなるとやっぱ輸入家具の方が探しやすいし」
さすが医療コンサルティング社長。インテリアに関しても色々詳しい。
というか、一緒に寝る気満々なのがちょっと可愛い。
「今の一矢くんのベットも広いじゃない。あと部屋が全部素敵だったよ」
「ああ、寝室は家具全部アルマーニなんだよ。アルマーニホテルのスイートルームに確かキングサイズのベットが――」
「ちょっとまって。いい。良いってば」
具体的なブランド名が出て焦ってしまった。間違いなく高級で高額に違いない。
「私は今のままでいい。贅沢したくない」
「ずっと一緒に暮らすんだから快適な家具の方がいいと思うけどなー」
でも急ぐ必要はないか、って一矢くんが一歩引いてくれたのでこの話は終わった。
しかしこれからもお金に関しては、目を光らせていこう。
職場でも正式に、結婚したことを報告した。
美香さんは大喝采の大喜びでお祝いしてくれて、白鳥さんも「結婚式のネイルはタダでするヨ」ってからかってきた。
「あとは美香だけだね。この子、ほんとイケメンしか見えない病気だからねえ」
「店長。私だってもう、辻さんみたいなチャラい男じゃなく安心できるイケメンを探してます」
辻さんはそこまで悪い人じゃないだろうけど、美香さんは顔ではなく結婚相手としての条件のいいひとを探すようだ。
「ちょうどよかった。私、九月から専門学校の臨時講師の仕事が入ってさ。この店に二人ほど求人かけてたんだよ。そこで、――華怜」
白鳥さんが申し訳なさそうに、呼ぶので行ってみると来月のシフト表を見せられた。
「二人入るんだけど、その二人が既婚者で尚且つ平日の休みが欲しいらしくてさ」
「珍しいですね」
「旦那が運送会社と夜勤のある工場らしいんだよ。で、あんたの旦那は?」
「えーっとどっちかといえば日曜とか」
白鳥さんは「やっぱりね。いいタイミングだよ」と私の頭を撫でてきた。
「あんた、休日に休みいれていいね? これでバランスよくなるよ」
「私の方がいいんですかって感じなんですが……っ」
こんなにうまい話ってあるのって驚くほどタイミングが良かった。
一矢くんと休みがすれ違うのは、私たちだけじゃどうしようもなかったし。
「いいよいいよ。それまで私もしっかり産休や育休の制度を整えておかないとね」
「うーわー。店長まじ神対応。姑にしたい」
「誰がババアだよ。あんたが嫁に行くときには、さらに充実した福利厚生になるから。さっさと嫁にいきな」
「頑張って合コン参加します」
息まく美香さんに、大きなため息を吐く白鳥さん。
美香さんと白鳥さんが漫才のような会話を始める中、私はこれほど幸せでいいのかとまだちょっと実感が湧いてこなかった。
でも報告したら一矢くんは間違いなく喜んでくれそうだ。
「なんで八月から、臨時講師する三月まで。新人入るし、私は店にいないことが多いから、あんた達で回してもらう日が増えるよ。予約ブッキングだけはなし。隠れて残業やめてね。あんたたちを信じて行動することが多くなるからね」
私と美香さん、それと出勤していた同期数人が、返事をすると白鳥さんは慌ただしく奥に戻って出かける準備を始めた。
うちは飲み会とか強要しないし、仕事中以外は関りがほぼないし人間関係はそこまで悪くはない。美香さんも一番話しやすいけどプレイベートまでは踏み込んでこないし。
「新人って言っても子どもが小学生になったからって復帰した年上とからしいし、やりにくくなるかもねえ」
美香さんが携帯で九月、八月のカレンダーを見ながらため息を吐いている。
来年の三月までって五か月ぐらいちょっと大変かもしれないだけだけど、もし海外旅行に行くとしたら、それ以降がいいってことか。
一矢くんも四月から新人入ってくるだろうし、旅行はまだ先かな。
篠原愛紀
ゴンザレス
「店長はああ言ってくれてるけど、旦那って社長なんでしょ。忙しいなら仕事辞めて支えるのもありでしょ」
「え。私、辞める選択肢全く考えてなかった」
「うそ。玉の輿なのに?」
逆に美香さんの方が私の発言に驚いてる。
そっか。結婚ってそこまで一応は考えてみるものなんだ。
ようやく、色々騙されて始まった『結婚』について、クリアな目で見れるようになった気がする。
一矢くん、最初の方は私との時間を作るために、家にはほぼ寝に帰っているだけだったものね。
「結婚式するなら、絶対の絶対の絶対に呼んでね。決まったらダイエット始めるからすぐに教えて。一年ダイエットすればだいぶ体も搾れるでしょ」
なぜか美香さんの方が私より結婚式やら先のことを考えている。
いや、私の方が考えが足りなかったのかな。結婚なんて何も考えずに生きていくつもりだったし。
これは大先輩の美里にも相談しておこう。あと正式に妹になった美矢さんもだ。
仕事の準備も終わり、予約もなくお客様も来なかったので、お店のSNS用に美香さんと作品を写メにとって加工していた。
美香さんは派手でダイナミックな色使いからか、イイねが桁違いについた。
対して私が雨をイメージして綺麗にグラデーションできた青色のネイルにはイイネが6しかない。しかも一つは辻さんだった。
さっそく空きの時間がないかメールでの問い合わせがあったとご満悦の様子。
対して私にきたメッセージは一矢くんからだ。
『今日届くはずだった野菜が、日曜になりそう』
『なので今夜、帰りにどっか食べて帰りませんか』
『仕事終わりのデートってなんなら初めてでしょ』
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