TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

次の日の朝。わたしは、昨日よりほんの少しだけ早く家を出た。

家にいるより、学校の方が落ち着くなんて、前は思いもしなかった。


教室に入ると、まだ誰もいなかった。

自分の席に座って、また本を開く。今日こそ、ちゃんと読める気がした。


「お、佐伯、今日早いじゃん」


声がして、顔を上げると――また、としきくん。

眩しいくらいの笑顔。どうして、毎日こんなふうに話しかけてくるのか、わからない。


「……はい」


それだけしか返せなかったけど、としきくんは気にした様子もなく、隣の席にカバンを置いた。


「昨日、図書室行ってみたんだよ」


「……え?」


「佐伯がミステリー読むって言ってたから、ちょっと探してみた。タイトル忘れたけど、表紙が真っ黒なやつ借りたわ」


わたしは、一瞬だけ本当に驚いて、視線をそらせなかった。


「……読んだんですか?」


「んー、途中で寝た」


「……」


つい、笑ってしまいそうになる。

けど、笑うのが下手で、口元がちょっとだけ動いただけだった。


としきくんは、それに気づいたのかどうか、わからない。


「でもさ、登場人物がみんな嘘ついてて、誰がホントのこと言ってるかわかんなかったんだよな。佐伯、ああいうの好きなんだ?」


「……はい。“本当”を見つけるのが、好きなんです」


自分で言って、少しだけ胸が痛くなった。


わたしは、自分のことに嘘ばっかりついてる。

何も知られたくなくて、でも誰かに気づいてほしくて。


それでも――


「そっか。やっぱ佐伯、かっけーな」


その一言に、心の奥の方が、じんわり熱くなった。


そんなふうに言われたことなんて、なかった。

褒められることも、名前をまっすぐ呼ばれることも。


ふつうの会話。

でも、それはわたしにとって、特別な一日だった。


陰な私と陽な貴方

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

33

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚