《木戸芽那編》
気がつけばいつの間にか頂点に登っていた日が傾きかけていた。
もう何度目かも分からないチャイムが鳴り響く。
それにしてもお腹が空いたと校庭に設置してある時計を見れば、もう7時間目が終わり帰宅時間になっていた。
それはお腹が空くわけだ。
私の弁当は製鞄と共に教室に置いてある。あの教室に帰りたくなかったのだ。
それでもさすがに1度教室まで戻る他ない。私はそう思って体に力を入れ立ち上がる。
…痛い。
しばらく動かしていなかったために今の今まで忘れていた痛みを、思い出したかのようにまた体が痛み出す。
それに、濡れた服をずっと来ていたのが良くなかったのか頭がふらふらする。
風邪をひいたのだろうか。
結局、彼女、一華以外に屋上に来た人は誰も居なかった。変な心配などせず華に誘われた時に一緒に服を脱げばよかったなんて、今更後悔する。
体調が悪い。
私は屋上から手すりにもたれ掛かりながらゆっくりと階段を降りていった。
どうしたんだろうかと探るような視線が鬱陶しい。こちらを気にしないでくれ。
やっとの思いで私は教室に戻った。
彼女らの鞄はまだその場にあったが教室に彼女らの姿は見えない。
きっとまたみんなでトイレにでも言っているのだろう。馬鹿らしい。
心の中で毒を吐いた。
私の席の鞄を手に取った。
そして、そのまま足早に教室を出ようと、そう思っていた。
「あの…木戸さん、大丈夫?」
いきなり声をかけられ必要以上にビクッとする。
クラスラインを作る時に1度話したことがあるかな?ぐらいでしか話したことがないクラスメイトだった。
どちらかと言えば目立つ存在ではない彼女の姿に、少しだけ安心した。
「…」
「朝、水かけられて蹴られてたよね…
私、何も出来なくてごめんね…」
私が何も言わずにいると、困ったように眉を下げ再び言葉をかけてくる。
彼女の発言を整理するとこうだ。つまるところ、彼女は見ていたことをアピールして、助けられなかった罪悪感を減らす偽善者だということだ。
鬱陶しい。
まだ何か言ってるが私は無視して歩き始めた。
さっさと教室を出ようと俯いたまま出口へ向かう。
ドンとぶつかったかと思えば髪の毛をぐしゃりと捕まれ強く引かれる。
こんなことをするのば彼女たちがしかいない。声を聞かずとも分かる。
「カワイソーに
あの子アンタを心配してたのにねぇ?」
「…」
「マジ喋んないんだけど」
あの女が声をかけてきたせいで彼女らと鉢合わせてしまった。本当に、自己満の為に余計なことをしないでほしい。
さっきの私のことを心配していると言った彼女も、今は知らないふりで私を助けようとしない。
結局偽善じゃん。
私は彼女らの手から髪が離されたタイミングで、背を向けて教室の外に駆け出した。
「は、逃げたんだけど」
そんな声を後にして、体の痛みも忘れてひたすら靴箱まで走った。
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