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私と、朋也さんと一弥先輩。
なんだかとても不思議だ。
少し前には、こんなこと想像もできなかった。
一弥先輩にフラれた私と、朋也さんに強引にされて困っていた私だったのに……
2人は今、私の大切な存在になっている。
今でも信じられない。
ありきたりの言葉で何度も思う。
2人とも、本当にカッコよ過ぎるって――
2人は今日は私服姿だ。
ラフなのにとっても素敵で。
高身長のこんなイケメン2人の間にちっちゃい私。
服装だっておしゃれでもないし、地味な自分が恥ずかしい。
きっと、不釣り合いにも程がある。
「運転、途中で代わるから、しばらく頼む」
一弥先輩が朋也さんに言った。
3人での視察……という名の小旅行。
「ありがとう。じゃあ、出発しよう。シートベルトした?」
「はい、しました」
「僕も大丈夫。準備オッケーだね」
そんな単純なやり取りでさえ、2人はクラクラするほどに眩しい。
これは、まるで目の前で繰り広げられている恋愛ドラマなのか?
だとしたら、私はただのスタッフ……だ。
こんなのにずっと耐えられるだろうか?
車に乗ってから、ずっとドキドキしている。
朋也さんが運転、助手席に私。
後ろに一弥先輩が座っている。
カメラ機材もたくさん積んである。
「あ、あの、今日泊まる旅館って、老舗なんですよね?」
私は、朋也さんに敬語を使った。
今日は3人だからタメ口は無し。
「ああ、かなり。とても風情のある良い旅館みたいだ」
「楽しみだね。僕、旅館なんて久しぶりだな。仕事の下見だけど、旅行に行くみたいで何かいいね、こういうの。遠足とか、修学旅行みたいなわくわく感があるよね」
一弥先輩、何だか可愛く思える。
「私も実はとってもワクワクしてます。仕事が忙しくて、旅行になかなか行けませんもんね。とても良い機会を与えてもらって感謝です」
「そうだね。仕事が忙しいと、なかなかリラックスすることも難しいし、今日はせっかくだからリラックスできるといいな。あっ、もちろん仕事はちゃんとやるよ」
「一弥君も、森咲も、いつも一生懸命頑張ってるからな。仕事が終わったら、ゆっくり温泉にでも入って、おいしいものを食べて、リラックスしよう」
「うわあ、嬉しいです」
「ますますワクワクしてきたよ」
「じゃあ、着いたらすぐに写真撮りますか?」
「そうだな。旅館に荷物を置いたら、すぐにある程度おさえておきたい」
「わかりました。じゃあ、今日は私が助手になりますね。夏希みたいにはいきませんけど」
「恭香ちゃんが助手なら、僕は荷物持ちだね」
一弥先輩が笑った。
先輩が笑うと、本当にその場の雰囲気が温かくなる。
ずっとそうだった。
いつも大好きだった笑顔。
「夜のご飯と温泉のために、撮影と取材、頑張らないとね」
「ああ。俺、温泉なんて久しぶり過ぎて、いつ入ったか覚えてない」
朋也さんが言った。
「お父さんと温泉とかに行ったりしなかった?」
一弥先輩が尋ねた。
「それは無理だったな。父さんは忙し過ぎたから。まあ、子どもの頃、友達と銭湯に何度か行った覚えはある。それはそれでいい思い出だけどな」
「『文映堂』の社長だからな。やっぱり忙しいよね。まあ、うちも、社長じゃないけど役員だったから、全然家にいなかったよ。母親も働いてたし。だから、旅行とかもほとんど行ったことが無かったな。僕も友達と遊んだ記憶の方が多いよ」
一弥先輩……
そうだったんだ、知らなかった。
何年か一緒に働いていても、案外、みんなの家族関係はわからないものだ。
「じゃあ、やっぱり今日は3人でいっぱい食べていっぱい満喫したいですね。思い出も作れたら嬉しいです。せっかく3人で来たんですから。あっ、もちろん仕事優先で」
「思い出……そうだね。確かに今回の旅行を思い出にしたいね」
「……ああ。そうだな」
しばらく車は1本の山道を進んだ。
車酔いしないように、なるべくゆっくり運転してくれた。朋也さんの優しい配慮だ。
「そろそろですかね?」
「ああ、もうすぐだ」
「旅館が近づいてくると、やっぱりワクワクしてきますね。いっぱいおいしいもの食べて楽しみましょう」
「恭香ちゃんはとても可愛いね。そういう元気なとこ、見てて気持ちいい。うん、そうだね。本当にいっぱい食べて満喫しよう」
一弥先輩に可愛いと言われると、キュンとなる。
「そろそろ到着するから」
「ありがとうございます」
「いよいよだね」
それから数分で私達は目的の旅館に着いた。
駐車場に止めて、車から降りたら、目の前にとても立派な老舗旅館の姿が現れた。
周りには緑もあって静かな佇まいに早速癒される。
こんな素敵な旅館に泊まれるなんて思うと、今からとても楽しみになる。
きっと中に入ればもっと癒されるのだろう。