私達は、荷物を持ってロビーへと進んだ。
老舗らしい趣のある内装に感激しながら、とりあえずチェックインを済ませた。
「こちらです。どうぞ」
「ありがとうございます」
仲居さんに部屋に案内され、とても素晴らしいかなり広い和室でびっくりした。
窓からは、手入れされた庭園が見える。
ししおどしに鯉が泳ぐ池。
部屋から日本庭園が見られるなんて、素敵過ぎる。
その繊細さな造りに心から癒された。
朋也さんと一弥先輩が同じ部屋で、私は隣の部屋に1人で泊まる。
こんなに立派なお部屋を用意してもらい、心からテンションが上がって嬉しい。
贅沢過ぎるけれど、幸せだ。
荷物を置いて、私達は旅館の中を歩いた。
着物姿の美人の若女将が、丁寧に案内と説明をしてくれた。
ポスターやCMに最適な場所を探しながら、カメラに納めていく朋也さん。
私は、本当はチームが違うけれど、とにかく今日は、朋也さんと一弥先輩のチームのプロジェクトが成功するように頑張ってお手伝いしようと思っている。
「この辺りの景色は最高だな」
「そうだね。ここからだと、遠くのほうに夕日が見えるね。夕方は、幻想的な景色が撮影できるかもしれないね。CMで使えそうじゃないかな?」
「夕日が落ちる寸前のオレンジ色って、なんだか心を奪われてしまいますよね。女性はそういうロマンチックなのが好きかもしれません」
「恭香ちゃんが言うなら間違いないね」
「ああ、夕日のカットは使いたい。後は……」
試行錯誤しながら、たくさんの写真を撮り、意見を出し合って、ある程度の下見が終わった。
夜になって、食事の時間を迎えると、朋也さんは、目の前に並ぶ日本料理の写真を撮り始めた。
「料理の映像は必須だ。特にこの旅館の日本料理は彩りが良いからCMでも映えるだろう」
「本当に綺麗で食べるのがもったいないですね」
「まず目で喜ばせる、そこが日本料理の良いところだね」
それが終わってから、3人とも空腹を満たしたくて、早速豪華な料理をいただいた。
「食べるのはもったいないけど、やっぱりものすごく美味しいね。この鯛めし、本当に最高だよ」
一弥先輩、本当に美味しそうに食べている。
人が美味しそうに食べるのを見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
「この小鍋の牛肉、口の中でとろけますね。野菜も美味しい」
ポン酢であっさりがとても嬉しい。
「この素晴らしい味の上品さや美味しさが、ポスターやCMでうまく伝わればいいんだけどな」
朋也さんが言った。
「確かにそこは課題だね。テロップを出して説明するわけにもいかないし。映像を映す、カメラマンの腕にかかっていると言うことか……」
一弥先輩が答える。
確かに、その通りだと思う。
どれも盛り付けが綺麗で繊細で、見た目でも楽しめる料理の味の雰囲気を、映像で伝えるのはかなり難しい問題だ。
とにかく、この旅館の良さを、余すことなく、CMで伝えたい。
全てにおいて素晴らしく、また来たいと思わせてくれる旅館だから。
私……次は誰と来られるのかな?
ふと、そんなことを思ってしまった。
目の前にいる2人のことを、つい見比べてしまう。
「ごちそうさま。本当に美味しかった」
「ごちそうさまでした」
私達は、最高の食事を終え、次はお風呂に入ることにした。
私は、一人で女湯に。
内湯も露天風呂もあり、風情があってとても良い雰囲気だ。
「はあ……気持ちいい。最高……」
男湯に、朋也さんと一弥先輩が2人で温泉に浸かっていると思うとやっぱり不思議な感じがする。
月夜の下、2人があまりに綺麗で、周りにいる男性達もびっくりするに違いない。
私は、一瞬、2人の裸を想像してしまった。
朋也さんも一弥先輩も細身だけれど、適度に筋肉もあって……
はっ、ダメダメ!
私は何を考えているんだ。
自然に顔が赤くなるのがわかった。
さっきから私はやはり変だ。
温泉に浸かりながら深呼吸する。
それにしても、気持ちの良い露天風呂。
暗い空に浮かぶ月が、お湯にキラキラと反射している。
思わずお湯を両手ですくってみた。
お月様がすくえるような気がして――
何とも言えない風情のある景色が、旅行気分をさらに盛り上げてくれる。
時折、涼しい風が通り抜け、本当に心地良い。
今夜は、私にとって特別な日だ。
あまりにも素敵な夜――
美味しいご飯に、あったかい露天風呂。
とことん癒されている自分。
私は、もうこれ以上ないくらいの幸せを感じていた。
「このままずっとここにいたい……。帰りたくないな……」
誰もいない露天風呂で、私は思わずつぶやいてしまった。
気持ち良すぎて、眠ってしまいそうだ。
今、2人も、同じように幸せな気持ちでいるのかな?
そうだといいな……
私は、そのまま数分間、目を閉じた。
また風が、通り過ぎていく。
私の体を優しく撫でながら……
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