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身体を動かすけどそんなに大変ではなくて、人のためになる依頼を探すと意外と数多く見つかった。

その依頼と言うのは――。


「おばさん! 全部ここに置いていくね!」

「お嬢ちゃんたち、ほんと力持ちねぇ。助かるわぁ」


物品の運搬であったり。


「大丈夫だよーねんねしたらパパとママが帰ってくるからねー」


ベビーシッターであったり。


「お姉ちゃん、犬役ね」

「え? わ、わかった。任せてよ!」

「返事は“ワン”だよ」


子供の集会で一緒におままごとをしたりと、まさにそれなりに体を動かせて人のためになる依頼ばかりだった。


「――いや、これのどこが冒険者の仕事なのよ!」

「ちょっと……ヒバナは意地悪な小姑役なんだから、もっと役になりきらないと。ほら見て、アンヤなんか木になりきってるでしょ」


囁き声でヒバナを注意する。

小さな声で話さないとまた犬の演技指導が入るのだ。


「こういうのって普通、木の役なんてないと思うんだけど!?」


たしかに、言われてみればそうだ。

これは子供のお遊戯会じゃなくておままごとであり、おままごとは普通に考えて木の役なんて設定しない。

――犬と木、どっちの役のほうが楽かなぁ。




「ちょっと、今日受けた依頼を全部見せて!」


おままごとから解放された後、ヒバナに問い詰められたのでさっきのおままごとを含め、今日受けた依頼を開示する。

その項目を順番に目で追っていったヒバナの眉間に深く皺が刻まれていく。


「F、Fと来て次にGランクって……Gランクなんて子供がお試しで受けるやつよねっ」

「いや、だってギルドの人も困ってたからさぁ」


目を逸らしながら、精一杯の言い訳を考えた。

私も変わった依頼ばかり受けたものだとは思ったけど、たまにはこういうのもいいとは思ったのだ。

報酬はGランクの依頼だけあって雀の涙程度だが、報酬目当てではないので良しとしよう……うん。


「わたしはそれほど悪くありませんでしたよ、あの遊び」

「そりゃ、かっこいい騎士様役はさぞ楽しかったでしょうね。私なんて演技とはいえ、小さい子供をいびっていたのに…………最後はコウカねぇに切り捨てられて終わるし!」

「わたくしは~ずっと~寝ていられて~満足~」


ヒバナ的にはあの役はあまりお気に召さなかったらしい。

コウカに対して少し羨望の目が見えることから、魔法使い役とか別の役だったら案外ノリノリで演技してくれたりして。

逆にノドカなんかは病弱な妹役に指名されたのをいいことに2時間ずっと寝ていたから、大変満足そうにしている。

――妙に設定とかストーリーが凝っていたんだよね、あのおままごと。

おままごとのストーリーなんてあってないようなものだと思うんだけど、あれはもはや演劇だった。


「あたし、疲れちゃった……今日はもう宿で休むんだよね?」

「あー……ごめん。実はあとひとつ依頼が残ってて……」


私は一枚の紙をみんなに見えるように掲げた。

みんなには疲れているところ悪いが、どうかもう少しだけ付き合ってほしい。


「飼い猫の捜索?」







3日前から行方不明となったというキジトラ猫のキキちゃんを探すのが最後の依頼内容だった。

キキちゃんの特徴としては、額にハート形の模様が付いていると聞いている。

みんなの力を借りたら捜索は容易に済むのではないかと甘く考えていたのだが、ノドカの風を使った探知魔法ではジッとしている猫を見つけられないし、猫を見つけられたとしてもその見分けまでは付けられない。

地道な捜索がはじまった。


「キキちゃーん、どこー?」

「ユウヒちゃんが呼びかけても、意味ないと思うけど……」


それもそうか。キキちゃんは私のことなんか知らないだろうし、逆に警戒させてしまいそうだ。

そうなると怪しい所を虱潰しにしていくしかないのか、本当に大変そうだ。

猫は高い所とか好きなのではなかったか、と頑張ってその生態を知識から引っ張り出していく。

よく木の上に登って降りられなくなったみたいなエピソードをよく聞くし。

――あ、でも寒いと風が当たらない場所でジッとしているんだっけ。最近寒いからなぁ。

取り敢えずその2つの情報をみんなと共有した。


「なら、わたしは上から探してみることにします」

「上――ってちょっと、何それ!?」


なんとコウカは路地裏から建物と建物の壁を交互に蹴り続けることで、壁を登っていったのだ。

現実でそんな登り方をする人を私は初めて見た。


屋根の上に着地したコウカが手を振ってくる。本当にあの上でキキちゃんを探すつもりのようだ。

あの高さまで登ってもらって悪いが、流石に猫もあそこまでは登らないだろう。

でももしかするかもしれないので、あの子にはあの子の好きなようにやってもらうとしよう。


「あたしたちも手分けして探す……?」

「うん、そうだね。2人1組で手分けして探そうか。2時間後くらいにギルド前に集合で」

「え……2時間も探すの?」


こうして私たちは私とアンヤ、シズクとダンゴ、ヒバナとノドカの3ペアに別れて捜索を開始した。

依頼主は冒険者以外のあらゆる人に捜索をお願いしているのにまだ見つかっていないというから、そう簡単には見つからないことが予測できるがどうにか頑張って見つけたいものである。

シズクたちは食事や水分補給にありつけそうな場所を中心に、ヒバナたちはノドカの魔法での探知を中心に探すようだ。


「――さてと。アンヤ、私たちはどこから探そうか」


アンヤはこてんと首を傾げる。

そりゃ、いきなり聞かれても分からないか……。

取り敢えず、怪しそうな路地を中心に探してみるかな。


そうして路地を巡り、路地裏といったところまで探してみてもキキちゃんは見つからない。

もうこういった場所は他の人が探してしまっているのだろうか。


「ちょっとごめんねぇ」


路地裏に猫の集会を見つけたので、威嚇されながらもその中にキキちゃんがいないか探す。

だがやはりそれらしき姿はない。

私は肩を落として引き返し、アンヤと共に別の場所に行こうとした。


「行こ、アンヤ。……あれ、アンヤ?」


後ろにいると思って振り返ってもあの子がいない。

どこに行ったのかと辺りを見渡していると、真横の路地から「ニャー」という猫の鳴き声とともにアンヤが現れた。


「もう……どこに行ってたの、アンヤ……って、それ……」


アンヤの腕の中には額にハートマークがあるキジトラ猫が抱きかかえられていた。まさにキキちゃんである。

あと、想像以上に大きい……というか太い。

なんというかすごく貫録を感じさせる体型であった。


「アンヤ、すごいね。どうやって見つけたの?」

「…………影」


影、そうか……影かぁ。

――どういうこと?

まあ深く考えても仕方がない。見つかったのだからよしとしよう。

唯一分かるのはアンヤがお手柄だったってことだ。だから彼女の頭を撫でてあげて褒め称える。

彼女は黙ってそれを甘受していた。


少し早いが、冒険者ギルドに行こうと思う。

早く依頼主さんとキキちゃんを会わせてあげたい。


「それにしてもすごく落ち着いてるね、その子。アンヤってば、気に入られたのかな?」


ふてぶてしくアンヤの腕の中で寛ぐキキちゃんには、彼女に対する警戒心は見えない。

キキちゃんが図太いという可能性は捨てきれないが、流石に初対面の相手にここまで警戒しないというのはあり得ないだろう。

アニマルセラピーなんていうものがあるくらいだから、動物は人の機微に敏感だという話はよく聞く。

アンヤは物静かというには静かすぎる子だけど、それがキキちゃんには却って心地よく感じるのかもしれない。


あまりに大人しくしているものなので、少しくらい良いだろうと私が撫でようとするとすごい形相で威嚇された。悲しい。







「キキちゃん、キキちゃん!」


アンヤの腕の中から飛び出したキキちゃんが腕を広げた女の子に飛び付く。あんな体型なのに、案外キキちゃんは俊敏に動けるらしい。

再会を喜ぶ1人と1匹を見つめるアンヤの背中は、私の勘違いじゃなければどこか寂しそうに見えた。

もしかすると、アンヤもキキちゃんに対して少し愛着を持っていたのかもしれない。

そんなアンヤに向けて、キキちゃんの飼い主である女の子がパッと満面の笑顔を咲かせる。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

「……………………」


佇んだまま何の反応も返さないアンヤだが、私には困っているように見えた。……ここは少し助け船を出してあげようかな。

私はアンヤの側に寄ると、その耳元に口を近づける。

アンヤにしか聞こえないようにそっと言葉を紡いだ。


「こういう時は、“どういたしまして”って」


表情を作るのはまだ難しそうだから、それだけだ。

それだけでも、きっとアンヤの気持ちは伝わってくれるはずだ。


アンヤにしては珍しく、少しぎこちない動きで膝を曲げる。

――驚いた。私はそこまでするように言ってはいなかったというのに。

そうしてあの子は女の子の目線の高さまで自分の目線を合わせに行き、ゆっくりと口を開いた。


「……どう、いたしまして……」


その瞬間、女の子の腕の中にいたキキちゃんがアンヤの足元に駆け寄って来てあの子のブーツに顔を擦り付けはじめる。

するとその光景を見た女の子が驚きの表情を浮かべた。


「す、すごい! お姉ちゃん、もうキキちゃんと仲良くなってる!」


キキちゃんがアンヤに懐いているように見えたのは勘違いではなかったらしい。


「ねぇ、キキちゃんが撫でていいよって言ってるから撫でてあげて!」


そう言われたアンヤの手が少し泳ぐ。

振り返り、戸惑いの色を僅かに滲ませた目線をこちらに向けてきたので、私はそれに頷くことで答えた。

目線を女の子、キキちゃんへと移したアンヤの手がゆっくりとキキちゃんへと伸びる。

そして遂にその手が背中へと触れた。

あの子が手のひら全体で優しく撫でている。その間、キキちゃんは尻尾を揺らしながら大人しくしていた。


――今なら私も撫でさせて貰えるんじゃないかと手を近づけると、毛を逆立てて威嚇された。ショックだ。


その後もしばらくの間、アンヤはキキちゃんを撫で続けていたが日が暮れてきたこともあって、家へと帰っていく彼女たちへ手を振って見送ることにした。

そこに戻ってきた4人が現れる。


「あれ、もしかして見つかったの!?」

「うん、アンヤが見つけたんだよ」

「へぇ、お手柄だね、アンヤ!」


ダンゴが後ろからアンヤにぶつかるように抱き着いて、全体重を掛けるように伸し掛かろうとする。

危うく倒れそうになったが何とか踏ん張ったアンヤがダンゴに視線を向けている。まるで責めるみたいに。

そんなことを意に返さず、ダンゴは鼻を動かした。


「ん? アンヤの手、少し臭うよ」

「ああ、キキちゃんをずっと撫でていたからじゃない?」


いなくなったのが3日前なら、結構汚れていただろうからずっと撫で続けていればそうなる。


「……離れて」

「え、なんで?」

「…………不愉快」


何を言ってもダンゴが離れてくれなかったので、アンヤは影に潜って彼女の腕の中から脱出したようだ。

ダンゴが不満そうな声を上げる。


「あ……ちぇっ」

「あ、アンヤちゃん、洗ってあげる」


シズクが水を出し、アンヤはその水で手を念入りに洗い始めた。

――寒くなってきたし、そろそろ宿を見つけないとな。


「はい、今日のお仕事は無事終了。あとは適当に宿を――」

「ねぇ、ユウヒ。1人忘れてない?」

「え?」


全員に向かって呼び掛けようとした私の言葉をヒバナが遮った。

1人、2人、3人、4人、5人……あれ。


「コウカお姉さまは~?」

「――あ」


コウカがいない。

そういえばコウカには2時間後に冒険者ギルドの前で集合という言葉を伝えていなかった。

もしかして、ずっと高い所を探し回っていたりして……。


その後、私たちは全員でコウカを探し回った。


七重のハーモニクス ~異世界で救世主のスライムマスターになりました~

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