テラーノベル
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享年29歳。死因、交通事故。
夫とは、もう二年もほぼレス状態だった。それでも子供が欲しくて、薬の副作用の吐き気も全部飲み込んで、私だけが必死に不妊治療に通っていた。
きっかけは、夫の地方転勤だった。私はキャリアを捨てて、彼についていくことを選んだ。でも、慣れない土地での孤独と、終わりの見えない治療は、心を確実に蝕んでいった。
「治療が辛いの。少しだけ休んで、また外で働きたい」
ある日、勇気を振り絞ってそう訴えた私を、夫は鼻で笑った。
『ハァ? 何様のつもり? お前は俺に寄生してるんだから、黙って家事と子作りだけしてりゃいいんだよ』
言い返せば、十倍の罵詈雑言が返ってくる。私は感情を殺し、頷くことしかできなかった。
――そんな地獄のような日々の終わりは、あまりにも唐突だった。
病院の帰り道、駅前で見てしまったのだ。夫が、若い女性とホテルへ消えていくのを。
(私ばっかり……バカみたい)
ぼうっとして、赤信号にも気づかず交差点へ足を踏み出した。直後、真横から迫るクラクションと、巨大な衝撃。全身が焼けるように痛い。苦しい、息ができない。でも、不思議と恐怖はなかった。心の底から湧き上がってきたのは、鉛のような徒労感だけ。
(もう、疲れた……)
夫に愛されることもなく、女としての自信をすり減らして死ぬだけの、惨めな人生。
(神様。もし生まれ変われるなら、次はもっと情熱的に愛されたい。私だけを見てくれる人と――)
そう願って、私は目を閉じた。
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