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「……お嬢様! ソフィアお嬢様ったら! お時間ですよ、シャキッと起きてください!」
「ん……?」
体を揺すられて目を覚ますと、そこは病院のベッドではなかった。天蓋付きのベッドに、ふかふかの高級羽毛布団。そして見知らぬメイド服の少女が顔を近づけて私を覗き込んでいる。
茶色の髪に、健康的に日焼けした小麦色の肌。鼻の周りにはチャーミングなそばかすが散っていて、大きな黒い瞳をパチパチさせる様子は、まるで小リスのような愛らしさだ。
「やっとお目覚めですね! 」
彼女は私が起きたと見るや、太陽のような笑顔を弾けさせた。そのままキビキビとした動作で窓辺へ駆け寄り、重厚なカーテンをバッと勢いよく開け放つ。
「いつもなら昼寝なんてされないのに、珍しいこともあるもんですね。お疲れなのは分かりますけど、のんびりしてられませんよ? 明日の式のための最終確認が山積みなんですから!」
「……式?」
「もう! まだ寝ぼけてるんですか? 皇太子殿下との結婚式ですよ、結・婚・式!」
私の専属侍女らしいアンナは、やれやれと呆れたようにため息をついた。けれどその手は休むことなく、手際よくお茶の準備を進めている。
皇太子。ソフィア。頭の中に雷が落ちたような衝撃が走った。
私は跳ね起きると、ドレッサーの前に立った。そこに映っていたのは、前世の地味な私とは似ても似つかない、攻撃的なまでの美貌だった。
窓から差し込む光を浴びて、月明かりを糸にしたようなプラチナブロンドの髪が、背中に流れ落ちている。肌は陶器のように白く滑らかで、指で触れると吸い付くような弾力があった。
そして何より目を引くのは、意志の強さを宿したエメラルドグリーンの瞳だ。 目尻がキュッと上がったその瞳は、深い森のような神秘的な色を湛えており、ただ見つめ返すだけで相手を射抜くような迫力がある。
胸元が大きく開いた深紅のドレスは、豊かな胸のラインとくびれた腰をこれでもかと強調していた。
「うそ……これって、『ラディアント・ローズ』のヴァンクロフト公爵家令嬢、ソフィアじゃない!?」
間違いない。生前、私が心の隙間を埋めるようにやり込んでいた、あの成人向け乙女ゲームの世界だ。鏡の中の私は、黙っていても「私が世界の中心よ」と言わんばかりの、女王のようなオーラを放っている。
(……待って。明日が結婚式ってことは、もうバッドエンド確定ルートに入ってるってこと?!)
そう、私は思い出してしまった。ソフィアはこの後、ヒロインである聖女・シェリーをいじめ抜き、最後には夫となる皇太子に断罪されて火あぶりにされる――死亡フラグ満載の悪役令嬢に転生してしまったのだ。