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少年死刑囚69

【第46話】もしキミが殺されたら、キミは加害者に何を望む?

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2022年07月23日

#ホラー#グロテスク#殺人

「…被害者が味わった理不尽を、あんた達は想像したことある?」

被害者や遺族が直接手を下すという処刑方法によって、

今にも人生最後の時を迎えようとしている少年犯罪者達に問いかける水鶏(くいな)。

その瞳はどこか寂しげでもあり、

怒りに満ちているようにも見えた。

「ある女の子は、いつものように起きて学校へと向かった。

だけど、その途中で変質者に殺され遺棄された。

女の子は発見時、衣服は身につけておらず…顔には殴られた痕があった。

ある少年は、学校での虐めを苦にして自らの命を絶った。

当時、学校側は虐めを認めようとしなかったが、最終的に両親に謝罪。

でも…虐めの実行犯は実質不問。

人を自殺に追いやっておいて、元気にやってるってさ」

「…くっ」

「うううっ…ぐすっ」

水鶏の話と自分の境遇が重なったのか、

被害者のほとんどが目に涙を浮かべている。

そんな彼等の心の声を代弁するように、

水鶏は淡々と語り続けた。

「被害者となった人々は、ただ人生を謳歌していた。

それなのに、ある日突然…不幸に見舞われた。

自分がそんな目に遭った時…あんた達は、

この少年死刑法を否定できる?」

累や雲雀、あとりを見渡す水鶏。

雲雀はその眼差しを受け、ふっと笑みを漏らした。

「いやぁ、説得力があるなぁ。

まるで…自分も被害者みたいな口ぶりだね」

そんな雲雀の言葉を耳にし、

累は一つの可能性を思い浮かべるた。

(もしかして、あの大臣も事件に巻き込まれたことがあるのか?

いや…仮にそうだとしても、こんなの間違ってる)

やがて気づけば水鶏に向けて指を突きつけていた。

「犯罪者を恨む気持ちは分かる。

でも、もっと他に方法があるはずだ!なぁ、そうだろ!」

気持ちが揺らぐ。

自分のしようとしていることすら、

間違っているように感じてしまう。

しかし、それでも叫ばずにはいられなかった。

かつて師と読んだ男が、もしこの場にいたら、

『お前は甘いんだよ熊孩子(シォンハイズゥ)』と、

言い捨てるに違いないと考えながらも。

「ふふっ…甘いクソガキだなぁ、累くんは」

不意に水鶏が笑う。

呆れてものも言えないといった様子で頭を振る彼女は、

ゆっくり手をあげ、ある人物に指を向けた。

「ずっと一緒に走っていた雲雀くんが、

小雀(こがら)ちゃんだったとしても同じこと言える?」

「…えっ?」

突然投げかけられたクエスチョンに言葉を失う。

それを補うように、雲雀が累の言葉を引き取った。

「小雀?小雀って…。

木葉梟(このはずく)くんのお父さんに罪をなすりつけた悪い人だよね?

それが僕?やだなぁ、変なこと言わないでくれる?ねぇ?」

極自然な困惑と、極自然な弁明。

雲雀は心底困った様子で累に同意を求めた。

だが、それがかえって奇妙に見えた。

「まいったなぁ…。僕は小雀なんて人じゃなくて、

雲雀 京介(ひばり きょうすけ)だよ」

そんな雲雀に、あとりが突き刺すような視線を向ける。

「遺族に違うって言われたのに、まだ嘘を突き通すつもり?」

だが、雲雀は動じない。

「もう、鷹巣さんまでどうしちゃったの?

初めて会った時に、僕のことを微笑み爆弾魔だって言ったのは鷹巣さんだよ?」

「バカね、あれはブラフよ。

どこの馬の骨が幼馴染に化けているのか調べるために、

ちょっとした演出をしてあげたの」

種明かしに紛れた衝撃の事実。

累はそれを聞き逃さなかった。

「…幼馴染って、爆弾魔と鷹巣が?」

「ええ、私と京介…。

それから双子の弟、晴人(はると)と妹の柑奈(かんな)は、

いつも一緒だった。柑奈が死んで、京介が爆弾魔になるまでは…」

「…マジかよ」

「でも、そんなことを知らない誰かさんは、

私達に自分の過去を告白した。

爆弾魔ではない別の犯罪者の過去をね」

これまで一度も崩れたことのない、雲雀の表情が僅かに歪んだ。

「…キミって本当に面倒な人だね」

「だから言ったでしょ?

私…あなた以上にあなたのことを知ってるって」

バラバラだったパズルのピースが音を立てて合わさってゆく。

だが信じたくなかった。

狂った更生プログラムで出会った少年が、

時には励まし合いながらここまで来た少年が、

自分の人生を破滅に導いた相手だということを。

「木葉梟(このはずく)くん。

あなたも彼の告白に違和感を覚えていたはずよ…」

真実を後押しするあとり。

しかし、それを押しのけるように雲雀が割って入る。

「待ってよ、木葉梟くん。

鷹巣さんや大臣の言うことを鵜呑みにしちゃっていいの?

僕達、ここまで一緒に頑張って来た友達だよね?」

親しげな声音と親密な距離。

雲雀はいつものように累の肩にぽんと右手を置いた。

残る左手に――。

――血で汚れたナイフを握りながら。

「木葉梟くん!」

シュッッッ!!

「…くっ!!」

あとりの声に素早く反応し上体をそらす。

雲雀が振り出したナイフは累の首を僅かにかすめ、

薄皮を軽く切り裂いた。

「あはっ!今のをよけるなんてすごいね!!」

(ナイフ?こいつ、いつのまにそんなものを!)

唐突に攻撃を受け思考が吹っ飛ぶ。

累は雲雀の手と顔を交互に見つめ、

次に周囲に視線を配った。

すると、頭から血と脳漿を流して倒れる少女が視界の端に映り込んだ。

「彼女の頭に刺さっていたナイフね」

「いいナイフでしょ?

これね…外にいる時に愛用してたのと同じなんだ♪

いやぁ久々だなぁ、人をバラバラにするのは…」

「人をバラバラって、やっぱりお前が…」

「もっとドキドキするタイミングで

種を明かしたかったけど、これ以上は引き伸ばせないみたいだね」

雲雀は残念そうに息を吐いたかと思いきや、

すぐに表情を切り替え、ゾッとするほど不気味な笑みを浮かべた。

そして――。

「うん、僕だよ。僕がキミのお父さんを陥れて、

変態の殺人犯に仕立て上げた、小雀 翔慈(こがら しょうじ)だよ!」

ナイフの刃先をつぅと伝う鮮血を舌で味わい、喉の奥に流し込んだ。

少年死刑囚69

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