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石川の通夜には人が入れ替わり立ち替わりいろんな人が訪れた。とは言ってもみんな同業者みたいな人達だったけれど。小さくてもさすが老舗といったところか。親父の前に座って口々に「今回は運が悪かった」とか「たまたま巻き込まれて」とか心にもないことを言っていた。俺はその度にそんなの嘘っぱちだと叫びそうになった。テメエらが勝手に決めたことじゃねえかって言ってやりたくなった。けれどこんな小さな組でもわざわざ顔を立てて訪れてくれたことを親父は感謝してるみたいだった。誰も来てくれなかったらそれはそれできっと寂しいものだったのかもしれない。石川の功績が大きかったことを表してるって言われればそうなんだろうけど。
俺は息苦しくなって外へ出た。外の空気を吸ったところで何も変わらない。ふと葬儀場の外にスーツの人影が見えた。黒いスーツではない。確かに通夜は喪服じゃなくても構わない。けれど訪れた人はみんな黒いスーツだった。外の奴らはこちらをチラチラと伺っている。
「──警察だろ。何かしでかさないように見張ってる」井上さんだった。
「煙草は吸わねえのか?」そう言って井上さんは上着のポケットから煙草を咥え、俺に勧めてきた。
「吸ったことないから」
そうか、井上さんはそう言って俺の隣で煙草に火を点けた。暗闇に白い煙が立ちのぼった。こんな時くらい煙草の一つくらい吸えたらいいのにと思いながらぼんやり眺める。
「──木崎は頑張ってると思うわ。けどもう少し顔に出さねえようにしろ」
「出てました?」
「刺し違えても構わねえみたいな顔してンぞ」
それは気がつかなかった。俺は慌てて自分の顔に触れた。
「まあ、それぐれえは大事だったんだろ?」井上さんはポケットから携帯灰皿を出して煙草を押し付けた。そしてそろそろ戻ると言い残して去って行った。
大事、か。そうか石川は俺にとって大事な人だったんだ。そう思ったら胸の奥が締め付けられるような気がした。大事な人が死んだってのに俺はまた何もできないのか? 今はもう何もできなかった子どもじゃないんだ。
そう考えながら外でウロウロするスーツの男達を睨みつけた。