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俺たちはそのまま葬儀場に泊まることになった。もうほとんど帰ったようで、人影はまばらだった。「何か食えよ」とすれ違った春日さんに言われたけれど食欲なんてなかった。そういえばいつから食べてないんだろう。
部屋に戻ると井上さんと若者組が遅い夕食をとっていた。俺も呼ばれて席につく。巻き物を出されてひと口食べたがそれ以上は食べることは出来なかった。俺は飲み物を取って来ると立ち上がった。
ひと口無理やり食べたのが良くなかったのかもしれない。急に気持ち悪くなってトイレに駆け込んだ。だが吐こうにも出てくるものはない。仕方なく便座に座り込む。吐き気がおさまるまでは座っておこう。俺は便座に座り、頭を抱えてそっと吐き気がおさまるのを待った。
ふいにドアが開く音がした。どうやら誰か入って来たようだった。
「面倒なことが一つなくなってよかったなあ」
「ああ。アレが上に来るとかあり得ねえからな」
アレ? アレってなんだ?
ここのトイレは外側に開くタイプだから普段からドアは閉まっている。だから入ってるか入ってないかは分かりづらいのだ。俺は息を殺した。
「そもそも若頭も親父も鬱陶しかったんじゃないのか?」
「だろうよ。若頭なんて連絡きた時に笑顔だったもんなあ」
「殺らせたんじゃねえのか?」
「さあな。けどウチの親父ならやりかねねえな」
そう言って二人は笑った。名前は出てない。けど間違いなく石川のことだろうと思った。
「あんなチンケな組の若頭だかなんだか知らねえけど、俺らんとこの役職につこうだなんて十年は早ええわ」
「だな」
そう言いながら二人は出て行った。足音が遠のいて行く。俺はその場を動けなかった。
どういうことだ? 今のは恐らく〈鳴門組〉の奴らだろう。一緒になるって話し合いをしたんじゃなかったのか? 本部は一緒になれって言ったんだよな? それを飲んだのはテメエらだよな?
急に吐き気が襲ってきた。俺は慌てて便座に顔を突っ込んだ。出てきたのは胃液だけだった。
一体誰が石川を殺ったんだ? いや、「殺れ」と言ったんだ?
まさかと思いながら頭がガンガンと痛んだ。