テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
さぶれ
169
#不倫
設楽理沙
163
#狂愛
柏木さくら
4,200
赤井 里衣
1,613
2日後、香帆は仕事に復帰した。
20日間も休んで迷惑を掛けたが、職場は優しく迎えてくれた。
颯真は この営業所にいたから、みんなが彼を知ってる。
まさか突然死ぬなんて、誰も思っていなかった。
スタッフもドライバーも、暖かく香帆に接してくれた。
「忘れてることもあるし。受付するの恐いな」
「大丈夫よ。すぐ元通りになるって」
イレギュラーな対応は美緒に任せて、香帆は基本の仕事から始めた。
新入社員に戻った気分だ。
「美緒、よろしくね」
「うん」
美緒はフッと笑った。
(え????)
(あれ? なんだろ?)
香帆は違和感を覚えた。
なんか、いつもと違うような……?
(いや、考え過ぎか)
「よろしくね」 「うん(笑)」
すごく普通で当然な会話だ。何を気にしてるんだろ。
(この20日間でイロイロあり過ぎて、感覚が変になってる)
会社から帰った香帆は、ダイニングテーブルで牛丼を食べた。
テイクアウトした商品だ。
颯真が死んでから自炊が減った。
弁当も作らないから、昼食は[カップ麺]か[総菜パン]が多い。
栄養なんて週1回取ればいい。贅沢御飯は月1回で十分だ。
(本当に楽になったな)と思う。
幽霊の颯真はソファーに座っているから、死んだ気がしない。
ただ、ちょっと浮いてるのが気になる。
「アイツは、物件をキャンセルしたで」
颯真は情報収集担当だ。
桜志郎が契約した不動産会社に潜入して情報を探っている。
「じゃあ、終わり?」
「そんな簡単ちゃう」
不動産会社と『賃貸借契約』した後に解約すると、
〈礼金〉〈仲介手数料〉は戻らない。扱いが「退去」になるからだ。
桜志郎が契約した不動産会社は「解約通知は2ヶ月前まで」だから、
再来月まで〈家賃〉を請求される。
「しかもアイツは工事を急いだやん。物件に手を入れたから、敷金も戻らんわ」
賃貸借契約が終了したとき、借主は「物件を元の状態に戻す」義務がある。
物件の工事を始めた桜志郎には「原状回復義務」が生じて、
この費用は〈敷金〉から払うことになる。
「てことは……、礼金、敷金、手数料、ぜんぶ戻らないし、再来月まで家賃を払う、ってことね」
「それだけちゃう。施工会社にキャンセル料が発生するで。工事始めたし、材料仕入れたトコもあるし」
「それならさ、いっそオープンした方がよくない?」
「無理やん。もう資金がないし」
「そっか。オープンするなら、もっともっとお金が必要ね」
「初期費用は、俺らの三千万円で賄うつもりやったからな」
「絶妙のタイミングで取り返せたわ。颯真のお陰よ」
「戦いに〈情報)は必要や」
香帆はビールをグッと飲んだ。
「おいし―!」
颯真は羨ましそうだ。
「ええなぁ。俺も飲みたいわ」
「缶を持てないもんね」
「幽霊になったら得する、思たんやけど」
「得って?」
「映画館で タダ観したり、女湯入ったり」
「ダメでしょ!」
「せやねん。悪いことしたら〈地獄行き〉やねんて」
現世に戻るとき、三途川から厳重に忠告された。
「法律、公序良俗に反する行為は、そく地獄行きとなります」
「俺、プロ野球が好きやねん。球場行って観たらあかんの?」
「入場料を払わずに観戦してはいけません」
「厳しいなぁ、幽霊の特権ちゃうん?」
「幽霊に特権なんてありません」
香帆はビールを飲みながら笑った。
「三途川さんってサイコー」
「ホンマに怖い人やで」
ビールを飲み終えた香帆は、颯真のスマホを手に取った。
「アイツは、いま〈どん底〉にいるけど、〈奈落の底〉に落としてやるわ」
「そうや。肝心なことが残ってるしな」
「じゃあ、電話するね」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!