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「金がない……」
築20年のワンルーム・マンション。
桜志朗は、シングルベッドに寝転んで天井を見上げた。
「こうなったら……」
桜志郎には、推してくれる女性客が少ない。
独立する気だったから個人営業をサボっていた。
だが、一人だけ例外の女性客がいる。
桜志郎の熱心なファンだ。新人の頃から推してくれている。
「アイツに貢がせるしかないな」
その女性客に連絡しようとしたとき、桜志郎のスマホが鳴った。
(この番号は???)
登録してないが見覚えがある。
「香帆の夫の弟だ」
何の用だ?
三千万円は返した。あれで終わったはずだ。
無視したいが、何度も掛けてくるかもしれない。
「なんですか?」
桜志郎は、ぶっきら棒に電話に出た。
『エエ薬を持ってるらしいな』
「は?」
『兄貴の嫁から聞いた。特効薬なんやろ?』
「意味が解りません。電話を切ります」
『待ちいや。タダとは言わん』
「え……?」
(これはチャンスかもしれない)
いまから「あの薬の効用を誰かに伝える」のは難しいし、危険だ。
香帆の身内なら[薬の価値]を知っている。
最後の〈一包〉が金に変わるなら……。
『何個《なんぼ》あるんや?』
本当は〈十包〉と答えたいが、ここで嘘を吐けない
偽物を売ったらすぐにバレる。
なら[希少価値]を上げればいい。プレミアム価格だ。
「残りは、あと一つです」
『ほんなら、一千万でどうや?』
「バカなこと。他に欲しい人は何人でもいます」
『二千万 出そか』
「一つしかないんですよ。貴重品です」
『わかった。三千万や。これ以上は、こっちも無理や』
この辺りが「手打ち」のようだ。欲張ると逃げられる。
あの三千万円が返ってくる。
「では、あの公園で」
『3日後の夕方6時にしてくれ』
「わかりました」
電話を切った桜志郎は、ニヤリと笑った。
まだ終わってない。〈切り札〉が残っていた。