完全に言い訳だけど···忙しさと思うように進まない曲の編集と低気圧もあって睡眠も少し足りてなくって、つまり俺は少しイライラしていた。
「時間足りないって···疲れた···」
時間だけの問題じゃないとわかっていながら何かのせいにしてしまわないとやるせない苛立ちを抱えて俺はパソコンの画面を睨んでいた。
「元貴?入るよ···ねぇ、ちょっと休んだら?」
そこに少し前から久しぶりに部屋に来ていた若井が声を掛けてくれる。
「んー、いい」
そっけなく返事してしまう俺の肩に手を置いて、若井は続けて優しく話し掛けてくれる。
「そう言わないで。そんなにパソコン睨んでてもなにも出て来ないよ、息抜きしよう?」
だって俺がやらなきゃ誰がやるんだ···そんなことが頭に浮かび、俺はパッと若井の手を振り払ってしまう。
驚いて目を丸くする若井に罪悪感を感じて更に嫌な気持ちがどんどん膨らんで、俺は声に出してその理不尽な苛立ちを若井にぶつけてしまった。
「···なんにもわかんないくせに!若井には俺のことなんてわかんないんだよっ」
言ってから心の中ですぐに『しまった』って思ったけど、もうそれは取り返しがつかなくて。若井はくるっと俺に背中を向けると部屋から出ていってしまった。その後すぐに玄関が閉まる音が部屋に響く。
「嘘、わかいっ?」
玄関に若井の靴はない。
どうしよう、俺。
酷いことを言ってしまった。
「やだ、いやだっ」
せっかく久しぶりに家に来てくれたのに。
作業してばっかりの俺をそっと待っててくれたのに。
あんなこと言うつもりなかった。
若井が一番俺の事わかってくれてるって思っているのに。
「わかいっ、やだぁ···」
慌てて電話をしてもメッセージを送っても出てくれなくて。
いつも俺にとにかく優しくて甘やかしてくれる若井でも、頭にくることはあるだろう。
どうしよう。もし、もうお前には付き合えないから別れようなんて言われたら。
「ごめ···ごめんなさいっ、帰ってきてよ···」
携帯を握りしめてソファに座って若井からの連絡を待っていると。
ガチャ、と扉が開く音が聞こえた。
俺は慌てて玄関に行くと若井がいて、帰って来てくれたことに少しだけほっとした。
「わかいっ···ごめん、ごめんなさい···!」
そう謝り若井の顔を見る。きっと怒ってるだろうと思って見た顔は全然そんなことなく、いつも通りの優しい表情だった。
「泣かないでよ···俺、怒ってないよ」
おいで、と手を広げた若井の胸に飛び込む。大好きな若井の匂いがする、慌てていたのか少し汗の匂いもして、それも俺が好きな匂いだった。
「ごめん、若井が一番俺のことわかってくれてるのにあんな事言って。嫌いにならないで···」
「嫌いになんてならないよ···それに、俺が一番元貴のことわかってるって自信あるから」
ほら、と足元に置いていた大きな袋を指さす。中には俺が好きな飲み物、食べてみたいと言っていた新作のコンビニスイーツ、近くのお気に入りのパン屋さんのパンなどがたくさん入っている。
「これぜーんぶ、元貴が好きなやつでしょ。やっぱりちょっと休憩しなきゃ。夜もあんまり眠れてないんだろ?俺にはわかっちゃうの。···それだけ必死にやってくれてるのは、俺たちの為だって事も」
「わかい···」
若井はやっぱりわかってくれてる。
俺のことを全部わかって受け入れてくれている。
「ほら、好きなの食べてよ。それとも俺にしとく?」
荷物を運びながらリビングに移動して、机にあれこれと並べてながら冗談ぽくそう言う。
「···どっちも」
「どうぞ、全部元貴のだからね」
笑って俺を抱きしめると優しくキスしてくれる。
「俺は逃げないし、いつでもどーぞって感じだから。ほら、一緒に食べよ?」
「若井、食べ放題みたい」
「まぁ、そんなところ」
2人で顔を見合せて笑う。
さっきまでの憂鬱さが嘘みたいだ。
2人で並んでマンゴープリンを食べていると。
「あ、なんか浮かんだかも。ちょっとごめん」
慌ててパソコンへ向かうと若井が後ろから声を掛けてくれる。
「ん、きっといいのが出来るよ。お仕事終わったらさ、次は俺に元貴をちょーだい」
「···うん、たくさん、ね」
なんだか今度は上手くいく気がする。だって、俺のことを一番わかってくれてる若井が言うんだから、きっと間違いない。
コメント
8件
あ‥好きぃ
もう好きすぎて♡何回連打したか分からんわ。