テラーノベル
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俺はしばらく寝顔を眺めていたが
(こいつまじで無防備過ぎんだろ)
と思いながら頭を抱える思いだった。
ハルの匂いもするし、柔らかな毛先と色白の手が至近距離にある。
(俺の理性は耐えられるのか……)
◆◇◆◇
朝起きると、隣にハルがいた。
寝顔があまりにも可愛くて思わず頬に触れると
「んぅ……」と声を漏らしながら眠そうに薄目を開けた。
「わりぃ起こしたか」と声をかけると、
ハルはまだ半分夢の中にいるようで、「んー……」と言った後また寝てしまった。
そして、そのまま再び眠りにつこうとするハルの頬を片手でむぎゅっと掴んで
頬をぷにぷにと揉めば、今度はしっかりと目を開けて俺の方を見た。
「……んんっ、あっちゃんやめてよ~」
そう言って微笑むハルは、とても幸せそうだ。
この日常が続くように願いながら、
俺はハルを起こして朝ご飯を作った。
ハルとの暮らしは、穏やかに過ぎていく。
時々喧嘩もするが、それでも楽しくて。
ずっとこのままが続けばいいのに、なんて思っていた。
◆◇◆◇
ある休日。
珍しくハルに予定がない日だったので一緒に買い物に出かけることにした。
「どこ行くか決めてんの?」
「うーん……あっちゃんの服買いたいと思ってたんだよね~」
「俺の服?なんで?」
「だってあっちゃんいつも同じ服しか着てないし」
「別にいいだろ。似たようなもんだし、あんなんただの布なんだからよ」
「全然違うよ!ほら行くよ」
そう言って腕を引っ張られる。
抵抗せずについて行った先はメンズファッションの店だった。
店内には色々な種類の服があり迷ってしまう。
結局何着か試着して選んだのはカーキ色のジャケットに黒のインナーといったシンプルなものだった。
「うん!やっぱ似合ってる!」
「そうか?」
「うんうん、あっちゃんってルックスいいしすごい格好良い!」
そう言って笑うハルは本当に楽しそうだ。
「なぁ。お前、他に欲しいものとか無いの?」
「え?うーん……特にないかな…あっちゃんがいてくれたらそれでいいかなぁって思ってるから」
「……そーかよ」
こいつはどうしてこういうことを恥ずかしげもなく言えるのだろうか。
思わず赤くなりそうな顔を必死に抑えて平静を装う。
「よしっ!じゃあこれ買って帰ろ!」
そう言ってレジに向かうハルを呼び止める。
「待てよ。お前の服も買えよ」
「え?でも僕は別に……」
「いいから行くぞ」
ハルの手を引いて今度は別の店に向かう。
そこで買ったものはピンク色のパーカーだ。
それをプレゼントするとハルはとても喜んでくれた。
帰り道、買った服の入った紙袋を片手に持ちながら歩く。
「なぁ、ハル」
「なに?」
「お前って俺のこと──」
言いかけたその時だった。
「おい」
低い、威圧的な声が背後から聞こえてきた。
俺は反射的に振り返り、ハルを背中に庇うように立つ。
そこにいたのは、派手な金髪を伸ばした長身の男。
鋭い目つきで俺たちを睨みつけている。あのときの元カレで間違いないだろう。
「あ……っ」
俺の背後でハルが小さく息を呑む音がした。声が震えている。
「お前、あんときのフォーク野郎だな!?俺のハルから離れろよ!」
元カレは俺をギロリと睨みつけてきた。
その威圧に喰われることなく俺は目つきの悪さを活用した。
「もうお前のハルじゃねぇ、一体何の用だ」
「はっ。お前みたいな地味な奴に用はねぇんだよ。俺はハルに話があるんだ」
元カレが一歩踏み出す。
「こっ、来ないで!」
ハルが叫んだ。その声は恐怖に染まっている。
「おま…まだ俺のこと拒否るつもりかよ!べ、別にお前みたいな尻軽男にこだわるつもりはねぇけどよぉ、他の男とイチャついてるの見るとイラつくんだよ!!」
元カレの言葉に、俺の中で何かが切れた。
「お前元カレだかなんだかしんねぇけど、接近禁止命令出てんだろ。そんなに警察の世話になりてぇか?」
俺が低い声で言うと、男はだるそうに舌打ちをする。
「チッ…覚えとけよ」
そう吐き捨てると、元カレはゆっくりと踵を返して暗闇に消えていった。
ハルを脅かす男への怒りとは裏腹に、ハルは身体を小さく震わせて俺の腕にしがみついていた。
「あっちゃん……こ、怖かった……」
「大丈夫か」
「うん……ごめんね……また、迷惑かけて……」
ハルは俯いて唇を噛み締めている。
「気にすんな。それよりお前のこと守るのが最優先だ。……とりあえず帰るぞ」
俺はハルの肩を抱いてマンションへと歩き出した。
部屋に着くと、ハルは玄関先でガクッと膝を崩した。
「ハル!?」
慌てて支えると、ハルは泣き出しそうな顔で俺を見上げてきた。
「あっちゃん……っ、僕…って、やっぱり恋愛向いてないのかな…っ、尽くしてばかりだったし…あんなふうに舐められちゃうの、かな」
「…考えすぎだっつーの」
俺はハルの頭をポンポンと撫でる。
すると、ハルは堰を切ったように泣き出してしまった。
「うぅ……ぐすっ……だって僕っ…好きな人と両思いになれたこと一回もないもん…っ、いっつも飽きられちゃうんだもん……うう」
俺は何も言えなかった。
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