テラーノベル
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橘靖竜
113
視聴覚室は、校舎の端にある。 使われることがほとんどないせいで、昼間でも薄暗かった。
扉を開けると、古い機械の匂いがする。
榊はすでに来ていた。
カーテンを閉め切った部屋で、一人だけ椅子に座っている。
「……ほんとに来た」
「お前が呼んだんだろ」
「来ないかと思った」
「だからそのセリフ何なんだよ」
榊は少し笑って、机の上にノートパソコンを置いた。
「これ」
画面には動画ファイル。
タイトルも何もない。
「去年の文化祭準備の日に撮られたやつ」
「誰が?」
「知らない」
「怖」
冗談っぽく言ったつもりだった。
でも声が引きつっていた。
榊は動画を再生する。
荒い画質。
手ブレ。
夜の校舎だった。
誰かが隠し撮りみたいに歩いている。
遠くで笑い声がする。
『おい、やめろって』
『はは、逃げんなよ』
男子生徒たちの声。
画面が揺れる。
階段。
屋上へ続く扉。
そこで、映像が止まりかけた。
誰かが映った。
フェンスの近く。
制服姿の男子。
俯いていて顔は見えない。
「……これ、水野?」
「多分」
榊の声は静かだった。
動画の中で、撮影者が近づく。
『おーい』
その瞬間。
別の声が入った。
『……やめろって言ってんだろ』
全身が凍った。
その声。
俺だった。
「っ、」
椅子が大きな音を立てる。
「これ……」
呼吸がうまくできない。
「なんで俺……」
「まだある」
榊は動画を止めなかった。
画面の奥で、誰かが言い争っている。
でも風の音でよく聞こえない。
『お前のせいだろ』
『知らねえよ』
『見てたくせに』
ノイズ混じりの声。
その直後。
ガタン、と大きな音。
映像が激しく揺れる。
悲鳴。
そして、
画面の端に、一瞬だけ俺が映った。
青ざめた顔で。
何もせず立っていた。
動画が終わる。
部屋が静まり返った。
「……俺」
喉が震える。
「何してたんだよ」
榊は答えなかった。
代わりに、ゆっくり俺を見る。
「思い出した?」
その目が怖かった。
責めてるわけじゃない。
怒ってるわけでもない。
もっと別の、
“ずっと待ってた”みたいな目だった。
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