話し合いの結果。家で留守番をすることになったのは。
ミノリ(吸血鬼)。
シオリ(白髪ロングの獣人)。
コユリ(本物の天使)。
カオリ(ゾンビ)。
シズク(ドッペルゲンガー)。
ミサキ(巨大な亀型モンスター)。
俺と一緒に森に行くのは。
マナミ(茶髪ショートの獣人)。
ツキネ(変身型スライム)。
チエミ(体長十五センチほどの妖精)。
『モンスター図鑑』(『はじまりのまち』で手に入れた)によると、その森には結構強いモンスターが出るらしい。
なので正直、不安しかない。
だが、マナミ(茶髪ショートの獣人)の行きたい! という意思のこもった瞳には敵わなかった。
ということで、俺、マナミ、ツキネ(変身型スライム)チエミ(体長十五センチほどの妖精)の四人で『紫煙の森』に行くこととなった。
ミノリとコユリが喧嘩をしようとしてもシオリがいるから、問題ない……よな?
俺は黒いリュックに必要なものを詰め、忘れ物がないか確認した後、例の三人と一緒に出発した。(コユリに地上まで降ろしてもらった)
あー、これは……。俺がその森を見た時、気持ち悪い森だな……と思った。
見渡す限り霧にも似た紫色の煙が森全体を覆い隠しているし、いかにも毒ヘビが出てきそうな森だったからだ。
はぁ……この森に入るの嫌だな……と思いながら、俺が俯いていると。
「わ、私たちがいますから大丈夫ですよ! ナオトさん!」
マナミ(茶髪ショートの獣人)が俺を励ましてくれた。
な、なんて優しい子なんだ。
俺が「ありがとな、マナミ」と言いながら、マナミの頭を撫でると、マナミの両耳がヒコヒコと動いた。うれしかった……のかな?
よく見てみると、マナミの頬は少し赤く染まっていた。て、照れてるのかな? 俺がマナミの顔をもっとよく見ようとした時、ツキネ(変身型スライム)とチエミ(体長十五センチほどの妖精)に呼ばれたため、一旦中断した。
その後、俺はマナミを連れて森の中に入った。
それにしても、この煙は一体どこから出ているんだろうな……。
俺は歩きながら周囲を見渡したが、それらしきものは見つからなかった。
持ってきたコンパスをズボンのポケットから取り出して、現在俺たちが進んでいる方位を確認したが、針はクルクルと回っていた。
ここは『富士の樹海』かよ……まったく……。
俺が心の中でそう呟くと、先頭を歩いている……いや、飛んでいるチエミ(体長十五センチほどの妖精)が急停止した。
俺たちもその動きに異変を感じ、立ち止まった。
しかし、周囲からは鳥の鳴き声や風の音しか聞こえなかった。
そのため、チエミがどうして急に止まったのかは分からなかった。
俺が一歩前に踏み出して、チエミにその理由を訊こうとした瞬間、前方からモンスターが出現した。
体長三メートルはありそうな『巨大なイノシシ』を目にした時、俺はその場でピタッと停止し、驚かせないようにした。
見たか! これが田舎育ちの知恵だ! と誰かに言いたくなったが、悲しくなりそうなのでやめた。
俺が停止し続けていると、それはゆっくりとこちらに向かってきた。まるで、俺を狙うかのように……。
「ウオオオオッー!」
それは俺から見て五メートルもないところで突進してきた。
俺はとっさに左に回避して、難を逃れた。
な、何なんだよ! あいつ! 突然、襲ってきて! というか、みんなは? 俺が振り返ると、全員が風で作った結界らしきものの中に入って避難していた。
マナミ(茶髪ショートの獣人)は申し訳なさそうにしていたが、ツキネ(変身型スライム)とチエミ(体長十五センチほどの妖精)は、あとはよろしく! というような顔をしていた。
あの二人! こういう時に他人を見捨てるたちだったのか!!
俺が二人に一言文句を言ってやろうと二人に近づくと『巨大なイノシシ』が再び攻撃を開始したため、俺は怒りを闘志に変えた。
イノシシは直進なら、百メートルを八秒で駆け抜ける。
だが、カーブには弱い。よって、急に曲がれば人間にも勝機はある。
しかし、異世界のイノシシ相手に、それがいつまで通用するかは分からない。
それでも俺はタイミングよく回避し、なんとか持ちこたえていた。
俺の体力は正直あまりない。あの鎖を出すか? いや、そんな隙はない。なら、一体どうすればいいんだ?
その時、イノシシは唐辛子の匂いを嫌うということを思い出した。
だが、この森にそんなものは……って、よく見たらそこら中に生えてるじゃないか! (実は紫色である)
それは、まるでそこに生えるのが当然であるかのように生えていた。
これ、本当に唐辛子なのか? いや、今はそんなことを気にしている余裕なんてない! 俺は走りながら『唐辛子』を数本引き抜くと、口の中に入れた。
か、辛い! どうやら、これは正真正銘の唐辛子のようだ。
さてと、あとはこれをどうやって、あいつの口もしくは鼻に入れるかだな。
うーん、そうだな……あっ! そうだ! 俺は追ってくる『巨大なイノシシ』の突進を回避すると、マナミたちがいる方に走り始めた。
俺が三人の近くまで行くと、結界らしきものの中にいる三人の顔が真っ青になった。
みんな、すまん! 利用させてもらうぞ!
俺は結界の前に来ると百八十度回転して、両手を広げた。
「さあ! 来いよ! 俺が受け止めてやる!」
「ウオオオオッー!」
絶体絶命かと思われたが、俺は逆にその状況をチャンスに変えた。
俺は先ほど回避した時に、あらかじめ唐辛子を先端に『ひし形のダイヤモンド』のようなものが付いている鎖に刺しておいたのである。(『十本』のうち『二本』に)
俺は『二本』の鎖を勢いよく発射し『巨大なイノシシ』の鼻に『唐辛子』をねじ込んだ。(十本出さないと変身できない)
作戦……成功。
唐辛子の匂いというより鼻の中で破裂して出てきた種や汁などに驚いた『巨大なイノシシ』は苦しげな声をあげながら、逃げていった。
ふぅ……一件落着だな。
俺は鎖の先端を近くに落ちていた紫色の葉っぱで拭くと、みんなの安否を確認した。
「おーい、みんなー、生きてるかー?」
いつのまにか結界らしきものは解除されていた。
というか、三人は震えながらその場に座り込んでいた。
どうやら、予想以上の迫力に圧倒されたらしい。
マナミ(茶髪ショートの獣人)には悪いが俺を見捨てた罰だ。反省しろ。
さて、気を取り直して探索するか。
「ほら、みんなしっかりしろ。この世界のことは、お前たちの方が詳しいんだろ?」
俺はチエミ(体長十五センチほどの妖精)を頭に乗せると、残りの二人を立ちあがらせた。
すると、二人はガクガクと体を震わせながら、泣き始めた。俺は二人をギュッと抱きしめると、二人の頭を撫で始めた。
「よしよし、怖かったよな……。というか、この森に唐辛子が生えてなかったら、どうしようもなかったな」
その時、どこからか声が聞こえた。
「新たなモンスターと出会ったことにより、モンスター図鑑に新たなモンスター情報が更新されました!」
「ん? この声はいったいどこから……って、あの図鑑の声か……。びっくりさせるなよ」
俺は黒いリュックから『モンスター図鑑』を取り出すと、ページをパラパラとめくった。
すると、先ほどの『巨大なイノシシ』の情報が更新されていた。
えーっと、なになに……。
そこに記されていたのは『マシュマロ・ボア』という名前・生息地・体重・体長であった。
これを見た俺は、まるで『ポ○モン図鑑』のような便利な図鑑だな……と思った。
それを見て感心していると、再び図鑑から声がした。
「この度、この私……『モンスター図鑑』をご購入いただきありがとうございます! 私は新たなモンスターに出会うと自動で、そのモンスターの情報を更新していきますので! たくさんのモンスターと出会って私を成長させてくださいね? では、さらばだ!」
「……な、何だったんだ? 今のは……」
「さあ? ところで兄さん。これ、どこで買ったんですか?」
ツキネ(変身型スライム)。
「『はじまりのまち』で買ったのは覚えてるんだけど、どこの店で買ったのかまでは、分からないな。というか、店に置いてあった図鑑を適当に選んでもらったんだよ」
「そうですか。まあ珍しいですし、このまま持っておきましょう」
「そうだな。ちなみに、さっきのイノシシの肉は調理すると、マシュマロみたいな味になるらしいぞ?」
「そうなんですか? じゃあ、次に見つけたら狩りましょうか」
「それは別にいいが、持って帰れる程度にしろよ。それじゃあ、行くぞー」
こうして、俺たちは森の探索を再開したのであった。
その図鑑のおまけに『植物図鑑』が付いていたので中を見てみると、先ほどの『唐辛子』のことが書いてあった。
名前は『バイオレットウガラシ』。
年がら年中この森になっている紫色の唐辛子……らしい。
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