テラーノベル
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「当たり前やん!舞台踏んだんやで?もうウチらプロや!」
──
ライブ終演後の空気はまだ少し熱を帯びていた。
客席側では、撤収作業が始まっている。
舞台袖では、イナリズシの二人──寿司子とリコが、掃除道具を手にせっせと動いていた。
「いやぁ……出し切ったね」
寿司子が片付けられたステージを見ながら息を吐くように言う。
「ほんまやな。
汗でメイク半分はがれかけとるわ」
リコが笑い、モップを担ぐ。
周囲の若手芸人たちも、同じように黙々と片づけをしていた。
若手芸人は、片付けまでが仕事だ。
ようやく片づけが終わりかけた頃、
「イナリズシさん、調整室によろしいですか?」
スタッフに声を掛けられる。
寿司子とリコは顔を見合わせる。
「そういえば居残り命じられてたね」
「なんやろ、もしかしてギャラの追加とかやろか?」
「楽観的!」
そのとき、「おはようございまーす」と鈴のような声が響き、軽快な足音でスーツ姿の女性が手を振りながら入ってくる。
宇津久芸能の若手担当マネージャー、猫田だ。もちろんイナリズシの専属ではなく、まだ仕事の少ない若手芸人をまとめて一人で面倒見ている。
「お疲れさま、二人とも!
あっ、今日のネタ、ライブ配信で見てたけど良かったよ!」
そう言いながらも、その表情にはどこか緊張があった。聞けば猫田も主催から呼び出されたらしい。
スタッフに案内され、三人は会場奥の調整室へ。
そこには、スーツ姿の中年男性が待っていた。
笑顔だが、どこか“テレビ業界の空気”をまとっている。
「どうも、当イベント主催の藤原と申します」
男性は軽く会釈をして名刺を差し出した。名刺には有名な番組制作会社のプロデューサーの肩書。
思わぬ大物からの挨拶に寿司子の心臓がひときわ強く打った。
リコは座る前に「よろしくお願いしますっ」と頭を下げる。
寿司子も慌てて続いたが、口が乾いて声がうまく出ない。
続く
コメント
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♡50達成ありがとうございます✨