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そこまで言うと、副社長は、君もどうだとさきいかを差し出した。もう短いのしか残っていなかったら、いりませんと手を左右した。
「ところで、社長のギターについてだが、どう感じた?」と羽田氏は言った。
「ソフトだけれども、それだけじゃないですね。ダイレクトでズシンと芯に響きます。クリーンで透明感があって爽やかですが、意外と攻撃的なギターかもしれません」と俺は答えた。
「攻めるよりも守るほうが難しい。彼が今、新種の事業やスケールの大きな分野に挑戦できるのは、攻撃が得意なばかりが理由ではない。きちんとしたリスクヘッジができるようになった今だからこそ、なおさら大胆に振舞えるのだ。若い頃は盗まれた微々たるお金でも生活が傾いたが、今は数十億規模のプロジェクトへの投資をしていても、会社は傾くどころか強くなっていく」
羽田氏がさきいかを食べている間。俺は正門の向こうにあるはずの銅像の方を見ていた。
「明日のことだが、もう充分、技術的な準備はしてきたことだろう。だから私からは一言だけ言っておく。悔いのないよう自分らしくいくように」
彼は紙パックを自分でそそき、空になったパックを畳んで、買って来たときのビニール袋に入れた。
「今日は会っておいてよかった。あとは当たって砕けるもよし」
俺は時計台を見た。文字版が薄赤く光っている。
仰ぐは同じき 理想の光、か。