「‥‥‥ん、‥‥‥」
自分の頬に生暖かい風を感じて、ふと目を覚ま す。開いた窓からの風で、群青色のカーテンがな
び いてるのが目に入る。
あれ?ここは‥‥‥‥‥
周りを見渡そうとした時、ふと自分の
右手を握られていることに気付く。その先を見
ると‥‥‥
「‥甲斐?」
「藍さん、良かった、気付いたんですね」
「俺‥‥どうしたんだっけ?」
「急に倒れたんですよ。びっくりしました。あの
ままだったら、頭打って大変だったんですから」
どこも痛みはありませんか?と心配そうに聞いて
くる甲斐に、大丈夫だからと起き上がる。気付け
ば、ベッドで横になっていたようだった。
あまり見覚えのない場所だなと周りを見渡すと、
医務室ですよと甲斐が教えてくれた。
「俺、倒れたんやね‥ごめんな、全く覚えてなく
て‥‥‥って事はここまで甲斐が運んでくれたん?
俺を?」
「えっ、いや‥‥あの‥‥‥」
「ほんま、ごめん。重かったやろ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
何か言いたげに甲斐は口籠っていたが、それ以上
は言わなかった。
「最近寝不足やったんよ、ほんま アカンよなー」
「‥‥藍さん」
静かに甲斐は俺の顔を見ながら、繋いでいた手は
そのままに話し始める。
「‥やっぱり何かあったんじゃないですか?」
「さっきも言うたけど、何にもあらへんよー。甲斐って案外心 配性や‥‥」
「祐希さんと何かありました?」
かぶせ気味に言われ、また、甲斐の口からその名
前が出ると思ってなかった俺はハッと顔を 見る。
「な‥‥んで?」
「‥‥‥なんとなくです。」
「‥‥‥‥‥」
「いえ‥すいません。僕、前から藍さんの事見てたから‥‥今日 いつもと違うなって感じて‥」
「‥‥‥‥‥」
「祐希さんと何があったのかはわからないんです
けど‥藍さん‥‥祐希さんに対する接し方が違った から‥‥‥聞いてもいいですか?」
「えっ?な、なに?」
「藍さんは‥祐希さんの事が好きなんじゃ ないで
すか?」
「!!!」
いきなりのセリフに動揺を隠せない。
「何言うてるん!それは憧れの人やから‥‥好きは
好 きやけど‥」
そう笑いながら言いかけた俺を、甲斐は、静かに
でも思った以上の力強さで俺の上半身を抱きしめ
てきた。俺の口は甲斐の肩で塞がれる。
「藍さん、辛い時は泣いてもいいんですよ?」
「‥‥‥‥」
「気づいてました?いや、誰も他の人は気付いて
いないのかもしれないけど。藍さん、泣きそうな
顔して笑ってましたよ」
フッと俺を抱きしめていた両手を外して甲斐は、
そっと 俺の頬を両手で包み込む。
「泣きたい時は泣いた方がいいんです!」
僕がそばにいますよ。 そう言って微笑んでくれる
甲斐の両手は、とても 暖かくて‥そして
あの日の祐希さんの言葉と重なった‥‥‥‥。
‥‥藍‥俺たちの関係は普通じゃない。きっといつ
か苦しくなることもある‥‥
‥‥付き合いだして一ヶ月が過ぎた頃‥祐希さんの
部屋で言われた言葉。
「でも、覚えていてほしい。何があっても俺はそ
ばにいるし、お前のこと守るから」
‥‥‥ずっとそばにいるよ。
「‥‥‥ふっ 、‥‥‥ぐっ‥」
あの日から押し殺していた感情があふれ出してく
る。一度涙が溢れるともう自分では止められな
い。
嗚咽混じりに泣く俺を‥甲斐はしばらく涙を拭っ
ていたけれど、またそっと両腕で包み込むように
俺を抱きしめてきた。小さい子供にするように背
中を 「トントン‥」と叩かれる。
甲斐の優しい心臓の音と体温が相まって、さらに
感情が高ぶる。
‥‥‥ねぇ、祐希さん。
あの時、俺はどうしたら良かったんやろか?
泣いて欲しがる子供みたいに、泣き喚いて、‥‥嫌
だ!別れたくないって。
素直に言えてたら良かったんやろか?
もしも‥‥‥
俺があの時、何か口にしていたら‥‥‥
こんな終わり方じゃなかったんだろうか‥‥
貴方に嫌われたくなくて、最後まで言えなかっ
た。
‥‥‥行かないで。
こんな終わりを迎えるために祐希さんを好きになったんじゃないのに‥‥‥‥‥‥。
コメント
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最高です😭✨️