甲斐Side
フワッ‥。
柔らかな髪の毛が自分の頬に当たる。ふと、抱き
しめていた藍さんを見ると、そのまま泣きつかれ
て眠っていた。
‥‥ずっと眠れていなかったって言ってたな。
ベッドにそっと優しく藍さんを横にした後、目の
下にできていたクマを見つめる。
以前会った時よりも少し痩せてしまった頬を愛お
しそうに撫でる。そんな俺の手の温かさを感じた
のか、眠っている藍さんは、スリっと頬をくっつ
けて‥‥‥
「ゆ‥‥き‥‥さん」
目尻に溜まっていた涙が一粒零れ落ちる。
祐希さんの夢を見ているんだろうか‥そう思う
と、今までにない程の感情が自分を支配している
事に気づいた。
「‥藍さん、祐希さんじゃないよ」
「‥‥‥‥」
「ねぇ?僕を見てほしい」
「‥‥‥」
「僕だけを見て‥‥‥‥」
自分でも驚きだと思う。泣き疲れて眠る藍さんの
唇に そっと自分の唇を重ねる。もしかしたら起
きてくれるかな‥そんな願いを込めつつ‥ 眠っている藍さんは、ハッとする程綺麗で、寝顔 に夢中になっていた僕は、入り口の扉で微かに音 がしたと思ったが、気にもとめなかった‥。
藍Side
あれから暫くして目を覚ますと‥最初に目覚めた
時と同じように側に甲斐がいた。
泣いたまま寝てたのか‥。ごめんと謝る俺に気に
しないで下さいと笑ってくれる。
休んでたほうが‥と言う甲斐に大丈夫だと告げて
練習に戻る。
それでも、やっぱり安静にと言われ、その日は練
習を見学するに留めた。
悲しいかな‥心のどこかで祐希さんが心配してく
れるんじゃないかと思ったが、‥大丈夫だった?
と聞かれただけで、特に何もなかった
俺はいつまで期待してしまうんやろか‥
練習も終わり、その日のホテルに移動する。そう
いえば、相部屋の人って誰だっけ?と思っていた
ら、バスから降りて荷物を受け取るタイミングで
甲斐がやって来て、ヒョイッと俺の荷物を抱えて
いた。
「俺の荷物やから、ええよ」
「大丈夫です。それに同部屋なんですよ、僕た
ち」
そうか‥。今回は甲斐と一緒だったのか。そのま
ま一緒に部屋に向かう。
昼間、甲斐の前で号泣してしまったこともあり、
妙に気恥ずかしい‥//
祐希さんとの事もバレたよな‥そう思ったが自分
から聞く勇気はなかった。
そろそろ夕食の時間だからと、先に席取ってきます と甲斐は笑顔で駆けていった。
荷解きも終わって少ししてから、エレベーターの
前で待っていると‥
「藍!」
「あっ、小野寺さん、今からっすか?」
「おう!腹減った〰」
そう言ってお腹を大げさに擦るジェスチャーに思
わず笑ってしまう。
「良かった、だいぶ顔色もいいみたいだな。心配
したんだぞ、倒れた時」
「マジっすか、すいません」
「いや、いいよ。藍が大丈夫だったんなら‥」
「申し訳ないです。あの後もずっと甲斐が色々し
てくれてたみたいで、迷惑かけたなぁって」
「そういや、甲斐ずっとお前についてたもんな。
心配だからって」
「はい、おかげで助かりました」
「‥‥ところで、祐希は?」
「‥えっ?」
なんでここで祐希さんの名前が出るんやろ?と
不思議に思ってるのが顔に出ていたのか‥
「いや、藍が倒れた時に真っ先に駆け寄って支え
てたのは祐希だよ」
「‥‥!!??」
「医務室まで運んでくれたのも祐希だし‥その後
ろから甲斐も付き添うってついて行ってたけど
な‥」
知らなかった。俺を運んでくれたのは祐希さんだ
ったのか‥一度もそんは素振りは見せていなかっ
た。俯く俺を小野寺さんは不思議そうに見つめな
がら
「えっ、知らなかったの?」
「はい‥起きた時は甲斐だけだったので‥」
「そか‥‥いや、でもその後休憩になった時、祐希、抜け 出したんだよ。てっきりお前の様子見に行ったん だと思ったんだけど、来なかった?」
「いえ‥‥一度目覚めたんですけど、またそれから
寝てしまって‥」
そかそか、いや、俺の気のせいかも。祐希、すぐ
戻ってきたしな‥でも、なんかいつもと様子が違
ったような‥そう呟く小野寺さんの声はもう俺の
耳には入らなかった。
‥‥祐希さん、倒れたとき来てくれてたんだ‥‥
心配してくれたってことだよな‥不覚にも胸がキ
ュンとトキメイてしまう。
‥俺は今だに祐希さんが好きなんだと気付かされる‥‥‥
消してしまわなければならないこの想いを、俺は
いつまで持ち続けるんだろうか‥‥‥
ふと、窓の外を覗くと、いつの間にか雨が振り始
めていた。あの日のように激しい雨だった‥。
この雨のように俺の想いも、洗い流してくれればいいのに‥‥‥‥‥。
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