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「だからもう、そんな悲しそうな顔、しないで? ……僕の前では仮面を外した素のキミになっていいんだよ?」
僕はそっと彼女の顔から眼鏡を外してすぐそばのローテーブルの上へ置いた。
「沙良、凄く綺麗だ……」
軽く唇が触れ合ったけれど沙良は逃げない。僕は沙良の様子を注意深く観察しながら、今度はさっきより深く唇を重ねた。
(飛ばし過ぎたかな?)
そう思ったけれど、沙良は微かに震えながらも、抵抗しなかった。
僕は沙良の身体を抱き寄せて、ソファの上へ優しく押し倒すと、何度も口づけて、頬を撫でて、そっと囁くんだ。
「沙良。……ちゃんと大切にするから、僕に沙良を全部頂戴?」
「朔夜、さん……、私……」
沙良は涙をにじませながら、躊躇いがちに目を閉じて、僕の名前を呼んだ。
「沙良が愛されてもいい女の子だってこと、僕に証明させて?」
懇願するようにそう問い掛けたら、沙良が控え目にこくりと首肯してくれる。僕はそれを見逃さなかった。
***
指先をそっと沙良の襟元に添えると、布地が微かに擦れる音が静かな部屋の中に小さく響く。
ゆっくりと、丁寧に――まるで大切な贈り物を解くように、僕は彼女の服に手をかけた。
硬く閉じられていた沙良のまぶたが、そっと揺れて開き、僕の顔を見つめてくる。
お酒の力もあるだろうか。
全身がほんのり薄桃色に色付いた沙良の下着姿はとても魅力的で、全部見えないからこそ秘めたる部分にワクワクさせられてしまう。
「あっ、……朔夜、さっ……。ダ、メっ」
沙良の下着は彼女らしい、とても控え目なローズグレージュのレース付き。その柔らかな色合いの肩紐にそっと指をかけると、沙良の身体がわずかに震えた。
逃げるように伏せた目元が、どうしようもなく愛おしい。
「大丈夫だよ、沙良。……怖くない」
そう囁きながら、僕は慎重に背中へまわした両手で丁寧にホックを外す。
プチッという頼りない音がした瞬間、彼女の肩から布がするりと滑り落ちて、その下に隠されていた柔らかなラインがシーリングライトの明かりに照らされた。
フワフワのふくらみを隠そうとするように、沙良が胸元を両腕で懸命にかばう。
僕はその腕に手を重ねて優しく撫でながら、もう一度沙良と目を合わせるんだ。
「ちゃんと見せて? ……キミの全部が、欲しい」
僕は躊躇いがちにのけられた沙良の胸元へ、そっと手を添える。控え目で綺麗な形をした沙良の胸は、僕が触れる度に甘い芳香を放ちながら、手にしっとりと馴染んだ。
あえて触れないようにしている薄い色付きの先、愛らしい乳首が刺激してもいないのにツンと天を向いている様がたまらなく官能的で、見ているだけで腰にくる。
「可愛い……」
散々焦らしておいて、先端の小さな果実をチュッと吸い上げた途端、沙良の身体がびくりと跳ねた。
「気持ちいい?」
耳元でそっと問い掛けた僕に、沙良が恥ずかしそうに視線を逸らせる。
「ねぇ、沙良。お願い? 言葉にしてくれなきゃ分からないよ?」
本当は聞かなくたって沙良が感じてくれていることは、蕩けたみたいな彼女の表情を見れば一目瞭然だった。
だけどごめんね? 僕は沙良の口からちゃんと聞きたいんだ。
だって……沙良が自分から僕を求めてくれないと意味がないんだから。
「朔夜さん。お願……、もぉ、許し……て?」
快感を得ることにこれほど拒絶反応があるだなんて、沙良、キミは何て身持ちが固くて僕好みの素敵な女性なんだろう!
「ダメ。沙良は愛されてもいい女の子なんだって……異性に触れられて気持ちよくなってもいい存在なんだって……自分で認めてごらん? きっとそれこそがキミに必要なものなんだ」
僕の誘い掛けに、沙良が泣きそうな目で僕を見た。
「沙良。キミはね、キミが愛して欲しいって思う相手に愛される権利がある。変な男が言ったことなんかに、いつまでも囚われていていいはずがない」
「でも……」
「沙良、僕は……僕こそが沙良に愛してもらえる男になれるって、図々しくも期待しているんだけどな? ……脈はないのかな?」
沙良が僕の誘いに応じてこんな無防備な姿をさらしてくれている時点で勝ったも同然。沙良は、いくら怖い目にあったからって、好きでもない男が肌に触れることを許すはずがないんだ。いや、むしろ怖い目に遭ったからこそ、その辺の振るい掛けはいつも以上に厳しくなっているはず。
勝算しか感じていないくせに、わざと眉根を寄せて自信なさげに問い掛ければ、沙良が慌てたようにフルフルと首を横に振った。
(ほらね、やっぱり)
そんなことを思う僕に、沙良が言う。