テラーノベル
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放課後の教室を出て、
僕はゆっくり歩きながら下校した。
気づかれないように涙を袖で拭い、
ため息をつく。
夕焼けのオレンジ色が遠くの坂道を
染めているのに、胸の中はずっと、
雨が降っているみたいだった。
足取りは重く、何度も立ち止まりそうになる。
さっき、彼が優しくしてくれたことを
思い出しても、心に空いた穴は埋まらない。
若井と涼ちゃんの笑い声や、
僕を置いていく後ろ姿ばかりが、
何度も、何度も頭に浮かんできて、
消そうと思うほど苦しくなった。
どうして、僕だけ――
家の前に着くと、玄関のドアがゆっくり開いた。
綾華『お兄ちゃん、おかえり!』
妹の綾華がランドセルを背負ったまま、
満面の笑顔で迎えてくれた。
元貴『ただいま…』
なんとか声を作り、靴を脱ぐ。
リビングの方から母の『元貴?帰ったの?』
という声が聞こえてくる。
父も新聞を置いて顔を上げ、
『今日は遅かったな、大丈夫か?』と
優しく言ってくれる。
3人揃って僕の顔を見ると、
ふと空気が静かになった。
母『…何かあったの?』
母がすぐに心配そうな顔で尋ねる。
元貴『ううん、別に…』
また作り笑いが口元を引きつらせる。
でも、弱々しくぎゅっと握りしめる僕の
手を、両手で包んでくれる綾華の小さな手。
肩にぽんと手を置いて見守る父。
そっと背中をさすってくれる母。
その全部があったかくて、優しすぎて――
気がついたら、
涙が堪えきれずにまた溢れてきた。
元貴『ご、ごめん……』
小さく呟くと、綾華が驚いて
『お兄ちゃん、?』とより一層、
強く握ってくれる。
母がぎゅっと僕を抱きしめて、
『大丈夫、焦らなくていいよ』と
そっと言った。
父は、僕の頭を撫でながら、
『泣きたいときは泣けばいい、無理すんな』
いつも強いはずの父のその言葉に、
不意に全部が崩れてしまった気がした。
たくさんの想いが、涙ごとあふれてくる。
元貴『……僕、置いてかれた気がして、
寂しくて、どうしていいか分かんなくて…』
嗚咽混じりに、一言一言、
やっとの思いで声にする。
母は、黙ってずっと背中をさすってくれて、
綾華は『お兄ちゃん、泣かないで』と
何度も言いながら、袖で拭いてくれた。
僕の涙はなかなか止まらなかった。
でも、家族は誰1人、
責めずにそばにいてくれた。
その優しさに救われながら、
ようやく少しだけ落ち着いたころには、
空がすっかり夜に変わっていた。
部屋に戻って、カーテン越しの夜の風に
そっと包まれながら、
机の上に置いたスマホをぼんやり見つめる。
若井にLINEしよう、
でも、迷って、指が止まってしまう。
きっと若井は今日も涼ちゃんと一緒にいる
――そんな不安が、指先を重くする。
でも――伝えなきゃ終わってしまう、
と心のどこかで思った。
寂しい、
話したい…
画面に文字を打ち込み、送信ボタンを
押す前にすごく深呼吸をする。
“若井、ごめん、
今日ちょっと、寂しかった、
話せる時間あったら、
少しだけLINEで話したい、”
震えそうな指で送信ボタンを押した。
スマホの向こうで、
若井がどんな顔をしているかは分からない。
それでも、伝えたかった。
この気持ちを押し込めてばかりじゃ、
多分僕は僕じゃなくなってしまうから――
しばらく返信を待ちながら、
窓の外の小さな星をぽつりと見上げた。
部屋にはまだ涙の跡が残ったまま。
でも、ほんの少し、
心の痛みが軽くなった気がした。
コメント
9件
ここからどうハッピーエンドに繋がるのか...ドキドキです(๑° ꒳ °๑)
やばい、傷付いてるもっくん可愛い過ぎる!!!!もっと傷付いてもいいかも!?
続きありがとうございます😭 大森くんやっと気持ち若井に伝えられてよかった。次回も楽しみです♪