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『ねぇ、姫那。どっちが好き?』
昼休み、屋上のベンチ。
姫那はお弁当を食べながら、どこか上の空だった。
横に座る凛ちゃんは、少し前からその様子に気づいていた。
「姫那。最近、湊くんと仲良いよね」
姫那は、はっとして箸を止めた。
「うん……なんか、話しやすくて」
「……翔くんと話してるときも、そうじゃなかった?」
その一言に、胸の奥がざわめいた。
「……それは、また、ちょっと違うっていうか」
「……ふーん。違う、か」
凛ちゃんは静かにうなずいて、
空を見上げながらぽつりと言った。
「ねえ、姫那。どっちが好きなの?」
その言葉が、姫那の心に鋭く刺さった。
「……え?」
「どっちが“話しやすい”とか、どっちが“優しい”とか、
そういうの抜きにしてさ。
……“心が動くのはどっちか”って話」
姫那は言葉が出なかった。
心の奥で避け続けてきた問いが、目の前に現れた気がした。
「わたし……まだ、わからない」
それが、今の正直な気持ちだった。
凛ちゃんは微笑んだ。でもその瞳は、真剣だった。
「それなら、それでいいよ。
でもね──“わからない”って言ってたら、どっちも離れてっちゃうかもよ?」
姫那の心臓が、ぎゅっと締めつけられた。
(わからない。でも……怖い。選ぶことも、失うことも)
「姫那は、自分で決めていいんだよ。
誰かの気持ちより、まず“自分の気持ち”を、信じてあげて」
その言葉に、姫那の目元が少し潤んだ。
静かに流れる昼の風。
姫那の心に、ひとつの“覚悟の種”が落ちた瞬間だった。