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長くなるの…分かるぅ… でも、このお話はその長さが必要だと想いますよ! 若井さんの大森さんへの寄り添う速度がそのままお話の速度だと思うので。
今回も語彙?というか言葉の使い方が美しすぎて…。更新ありがとうございます!
わかいさんが大森さんを思う気持ち、 長年一緒に過ごしてきたからこそ、 扱い方がわかってるのがすきです、
──大丈夫。
急がない。
こうやって少しずつ、少しずつ。
若井は、元貴のことを理解して、
寄り添い、
そして心から、愛していた。
「……シャワー、借りていい?」
食事を2人、黙々と済ませた後に、
問いかけると、元貴は視線をこちらに向けた。
けれど言葉は返ってこない。
ただ、ゆっくりと頷いた。
若井はリビングを出て、
廊下をまっすぐに進む。
浴室のドアを開けると、
まだ空気が温かい。
床も、浴槽の縁も、ほんの少し濡れていて、
わずかに湯気が残っていた。
そこで、元貴が、
先程までここを使っていたのだと気づく。
置かれたままのシャンプー
折り畳まれたタオル。
湿り気を帯びたバスマット。
その気配を感じながら、
若井はシャワーのノズルに手をかけた。
お湯が背中を打つ音が、タイルに反響する。
ほんの数分だけ、熱を浴びて、すぐにそれを止めた。
髪から滴る水をバスタオルで拭きながら、
ドライヤーを手に取り、スイッチを入れる。
湿った髪が揺れ、
しばらくのあいだ、
無音の部屋にその音だけが鳴っていた。
若井は元貴を一人にしておくのが、
怖くて、
寝室へ向かうのを急いだ。
一番奥の寝室。
そこは、ドアが半分だけ開かれていた。
薄暗い照明のなかに。
元貴が、いた。
ベッドの上。天井を見つめたまま、
静かに横になっている。
まるで、何かをずっと考えているような──
そんな、虚ろな表情だった。
掛け布団は胸元まで引き上げられているのに、
どこか、震えているようで、寒そうに見える。
視線を向けても、元貴は動かない。
反応もしない。
若井は、一度だけ、寝室に入るのをためらい、
そして、足を進めた。
寝室の中を静かに歩き、
ベッドの端に、そっと腰を下ろす。
元貴の顔が、近くなる。
まつ毛が長い。
肌が少しだけ濡れて見えた。
……もしかして、泣いていたのか・・・?
けれど、聞かない。
言葉にはしない。
若井はただ、
そっとその髪に指を伸ばした。
触ってみると分かる。
乾ききっていない、しっとりとした髪。
その湿り気に、ほんの少し、安堵した。
……ちゃんと生きてる。
綺麗な髪に、指先をすべらせながら、
ゆっくりと、囁く。
「……元貴。いつでも
どんな状況でも
俺がいるから」
それだけを言って、髪を撫でる。
言葉は返ってこない。
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