テラーノベル
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「……元貴。
いつでもどんな状況でも、俺がいるから」
それだけを言って、髪を撫でる。
言葉は返ってこない。
若井は、しばらくのあいだ黙って元貴の頭を撫で続けていた。
指先を、そっと髪の根元に滑らせる。
やわらかい。
こうして触れるたびに、なぜか胸が締めつけられた。
根元から、毛先へ。
爪を立てないように。
ただ優しく梳く。
……それだけを、繰り返した。
元貴は、ゆっくり目を閉じて、動かなかった。
声も出さないし、表情も変わらない。
けれど、どこかで許してくれているような、
そんな空気に変わっていった。
しばらくそうしてから、
若井は、ほんの小さく口を開いた。
「……隣、いい?」
小さく、 囁くような音量で、
問いかける。
元貴は、目を開けないままだが、
ほんの僅かに、縦に首を動かした。
それが「問題ない」の合図だと、理解する。
ベッドの縁から身体を滑らせ、
そっと隣の布団に入り込む。
あまりにも静かで。
その寝室は、息づかいの音すら際立つほど、
深く沈んでいた。
若井は、ゆっくりと腕を伸ばす。
ためらうように、でも、
決して途中では止めなかった。
元貴の肩に、優しく手を添える。
そして、ゆるやかに引き寄せた。
もちろん、無理やりではない。
でも、拒まれてもやめるつもりはなかった。
若井の腕のなかに、元貴の身体が収まっていく。
痩せた肩。しなやかな背中。
胸元に、そっと抱き寄せると
元貴の額が、若井の鎖骨のあたりに、ふわりと触れた。
「……」
何も言わないまま、
若井は、その柔らかな髪に唇を落とした。
ひとつ、ふたつ。
そして、腕のなかでわずかに力を抜いた元貴の顎に、そっと手を添えた。
「……元貴」
若井はそっと顔を上げさせる。
そして、指先で支えるように、唇を重ねた。
ちゅ……
濡れた音が、静かな寝室にひとつだけ響いた。
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コメント
6件
わぁぁぁぁん更新待ってました~~~!!! もう本当に好き…!!どこまでも優しく、宝物を扱うように大森さんに触れる若井さんのやわらかい手つきが大好きです…… 抱き締めるときもキスを落とすときも、どんな時も大森さん第一に考えて行動して……あまりにも優しく大森さんに触れる描写が美しすぎて大好きです…!!
儚くて、切ない感じを出すような文章でお話の中に引き込まれそう、、、
儚くて、包み込まれるような感覚になります...(?)表現が繊細だぁ…