TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
離婚します 第三部

一覧ページ

「離婚します 第三部」のメインビジュアル

離婚します 第三部

48 - 第48話 綾菜のストーリー最終話

♥

39

2024年12月08日

シェアするシェアする
報告する

◻︎居場所


「お疲れ様、桜子先生!」

「えっ!そんな先生だなんて、恥ずかしいです」

「でも、楽しそうだったよ、みんな」

「私も楽しかったです、すごく。なんていえばいいんでしょうか、こんな私でも頼られたり、教えられることがあったりするんだと知って、とても充実した時間でした。ありがとうございました」


少し頬を上気させて、ジュースを飲んでいる。


「桜子さん、もしかして、これまでそんな機会がなかったのかもね」

「えっ?」

「いつも教えられる側とか、守られる側だったんじゃないかなと思ったんだけど」

「そうかもしれません、こんな風に誰かに何かを教える機会とか、それでありがとうと言ってもらえるというのはなかった気がします」


子どもたちが帰って、ひと段落したひまわり食堂。


「お疲れ様でした、子どもたち、とっても喜んでて私からもありがとうございました。よかったら晩御飯食べて行ってくださいね」


お母さんが晩御飯の準備をしながら桜子に話しかけた。


「いいんですか?実はとってもお腹が空いてたんです。美味しそうに食べてるみんなを見てたらもうたまらなくて」


今日のメニューは、ササミのチーズカツと具沢山豚汁、ひじきの煮物だった。


「いつも桜子さんが食べてるようなものじゃないけど、たまにはこういうのもいいでしょ?」


美味しそう!と匂いを嗅ぐ桜子。


「あのね、綾菜さん、ご飯は何を食べるか?より、誰と食べるか?の方が大事だと思うようになったんです。最近は仕事先で食べるコンビニのサンドイッチもとても美味しいです、みなさんと食べるから」

「そう?ならよかった」

「ねぇ、桜子さん?よかったらたまにうちにきて、さっきみたいにお勉強とか教えてくれないかな?お給料は払えないけど、晩御飯は出すから」


お母さんも席に着いた。


「それがいい、もちろん時間がある時だけでいいから。うちにやってくる子たちは、勉強したくても事情があって塾に行けない子ばかりだから」

「いいんですか?また来ても」

「いつでも。ひまわり食堂で桜子先生の塾も始まるってことで」

「うわぁ!ありがとうございます。私なんかがこんな風に誰かにたくさん、ありがとうを言ってもらえるなんて」


私はうれしそうな桜子を見ていて思った。


_____もしかしたら、誰かに愛されたいというより、誰かに必要とされたいと思っていたのかもしれない


そして、これから少しずつ、桜子の居場所ができていくだろうなと思った。


「それにしても。一つ納得いかないのは、私のことはおばちゃんと呼んだりする子達が、桜子さんはお姉ちゃん?なんかおもしろくないなぁ」


と、愚痴ってみる私。


「それはほら、なんていうか、年齢もだけど、雰囲気というか、綾菜と違って上品なお嬢さまオーラ?出てるからかなぁ?あ痛っ!」


またお母さんが進さんの脇腹をつねった。


あれから桜子は、レセプタントの仕事もどんどんおぼえていって、英会話の特技もあって呼ばれる派遣先も増えた。


「桜子さん、すごいね!元々いろんなことができる人だから、やれる人だと思ってたけど、期待以上だわ」

「それもこれも、チーフのおかげです。今はもう毎日が楽しくて仕方ありません。何故もっと早くこういうお仕事をしなかったのかと思います」

「人にしろ仕事にしろ、いろんなことの巡り合わせにはタイミングがあると思うから、きっと今がそのタイミングだったんだよ。これからが楽しみだね」

「はい!楽しみついでに私、一人暮らしを始めることにしました、来週引っ越します」


キラッキラに目を輝かせている桜子。


「一人暮らし?大丈夫なの?」

「大丈夫です、ひまわり食堂の近くのマンションにちょうど空きがあったのでそこです」

「よく、ご両親が承諾してくれたね」

「えぇ、そのマンションならば一人暮らししてもいいと言われました」

「そのマンションなら?」

「はい、お父様所有のマンションなので」

「あー、なるほど、って、ほんとすごいお嬢様なのね」


それにしても人ってこんなに変わるんだなぁと思う。

よく自分の居場所がないと言ってる人がいるけど、居場所は自分で作るものなのかもしれない。


不器用で失敗するかもしれないと思っても、勇気を出して何かを始めないと、いつまでたっても居場所を見つけられない。


「チーフ、今度ひまわり食堂で、お花のアレンジメントもやろうかと思ってるんですよ」

「へぇ、お花?」

「はい、お花を持ってきてくださる方がいましたよね?」

「あー、確か里中さん、趣味で育ててるというお花をよく持ってきてくれるよ」

「先日ひまわり食堂に行った時、無造作に花瓶に活けてあったから、少しアレンジしたらとっても喜んでもらえたんです。あの中学生の女の子もやってみたいと言ったので」


花瓶にざっくり活けてあった花を思い出した。

お母さんはそのまま花瓶に突っ込むから。


「里中さんもいい方ですよね?」


桜子はもう大丈夫だと思った。

新しい人と新しいことを始めようとしている。

もう自分の居場所をちゃんと作れるようになったようだ。


あれから…焼肉店で、桜子と神崎と省吾で会ってから、一度だけ、神崎から電話があった。


『まったく何も言って来なくなったんだけど、桜子さんはどうしてる?』

「とても素敵な出会いがあったようで、今ではとても楽しそうですよ」

『そうか、ならばよかった』

「なんですか?逃がした魚は大きいですか?」

『いやいや、そんなつもりはないんだが、あまりにもあっさりと連絡が途絶えてしまったから』

「それだけ、今が楽しいってことですよ、ご心配なく」


_____素敵な出会いとは、なにも異性との出会いだけではないんですよ、神崎さん


そんなことは言わなかったけど。


_____これからもまた、いい出会いがあるといいなぁ、あのひまわり食堂で



楽しそうな桜子を見ていたら、私もワクワクしてきた。

この先がずっと楽しいことであふれているような予感がする。


それは真っ青に澄み切った空のせいかもしれないと思った。






_____おしまい



この作品はいかがでしたか?

39

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚