※旧国、自傷、死ネタ
僕は、米国が嫌いです。
だけど、僕と米国はこいびとです。
仇討ちのためです。
「米国さん!」
「ん?どうした?日本」
僕の父さんを殺したくせに、僕に愛しそうな顔を向ける米国が憎くて憎くて、今にもハラワタが煮え繰り返りそう。
本当は昨日殺すつもりだった。
これを何百回と繰り返している。
父さんの仇を取るために、僕は…僕は、この人に近づいたのに…
なんで、まだ殺せてないの?
「っぐ…ぅ…」
ポタポタ、ボタボタ
米国への恨みを忘れないよう、腕に鋭い刃を滑らせる。
一直線の赤い跡は幾重にも重なっていて醜いけれど、あの日を記憶し続けるために必要なこと。
カッターも服も床も赤く染まり、腕はジクジクと痛む。
「ッふー…これでよし…僕は、米国がきらい… 米国なんか、だいっきらいじゃなきゃダメなんだから…」
呪いのように呟いた。
包帯を巻いた腕を袖越しにさすりながら、今日は米国とのお家デート。
今日こそ殺さなきゃ。
今日こそ殺して、父さんの仇を討たなきゃ…
「日本、こっちおいで」
「は、はい!」
不意に呼ばれ、僕は素っ頓狂な返事をしながら米国の元へ。
殺さなきゃいけないけど…
まだ、そのタイミングじゃないよね、きっと。
「なあ日本。俺に隠し事、あるよな」
「…な、なんのことです?あなたに隠し事だなんてあるわけが…」
「知ってるよ、俺。お前、腕切ってるだろ。それに、俺のことをひどく恨んでる 」
「そ…そんなこと…」
「あるよな。他にもいっぱい隠し事してるよな」
淡々と告げる米国の声は怖くて、ひどく落ち着いていた。
「なんで俺と付き合ってくれてるのかは知らないけど、お前が苦しんでるのはわかるよ」
(…うるさい)
「大事な恋人が傷ついてるなんて、世界のヒーローとして見過ごせないんだよ」
(…やめて)
「俺のことを恨んでくれても構わないが、言いたいことがあるなら、吐き出して欲しい。今日はそのために呼んだ。デートなんて嘘ついてごめんな。でも、」
「…やめてくださいよ!!!」
アメリカの話を遮り、日本は叫んだ。
「僕はあなたなんか大っ嫌い!!!父さんを奪ったんだから当然だ!!!なのに、なのに…なんで僕に優しくするんですか!!殺そうとしてたのに!!!昨日も、一昨日も、先週も、一年前も、なんなら出会った時から!!!」
今まで溜め込んできたものが流れ出る。
アメリカはずっと優しかった。
アメリカはずっと愛してくれた。
アメリカはずっと気づいていた。
「父さんの仇を取るために近づいた!!!あなたはそれに気づいてた!!!なのになんで優しいんですか?!なんで!?僕、僕は、僕ずっと… 」
信頼されたところで殺す。
そのはずだったんですよ
「いいよ。俺、日本になら殺されても」
ほら、と言ってアメリカは腕を広げ、無防備な姿勢になった。
日本はいつもカッターを持ち歩いているし、包丁を持ってくることもできる。
「…ッ」
「俺は抵抗しないよ。殺したいなら殺してくれ」
「…後悔、しないで…くださいね…」
「好きな人に殺されるなら本望さ!」
日本はポケットから錆びたカッターを取り出し、両手でしっかりと持った。
ドスッ
鈍い音が響く
カッターは、壁を刺した。
「…殺さないのか?」
「ッ…できない…僕にはでき ないです!!!」
日本は大粒の涙をこぼしながら、力なく座り込んだ。
カッターはからん、と床に落ち、誰を傷つけるでもなくその場に居座る。
「できないよぉ…僕、父さんの仇を取るために頑張ってたはずなのに!あなたがいなくなるって考えたら、すごくこわい!そのために色んなことをしてきたのに…デートもしました、キスもしました、体も許しました。なのに…こんな絶好のチャンスで…」
子供のように泣き続ける日本は、アメリカの目には迷子の子供に見えた。
「ごめんなさい…言ったこと何も成功できなくて…父さん、ごめんなさい…」
長い袖で目を擦っても擦っても、視界を揺らす水滴は尽きることがない。
「こら、擦るんじゃない」
「優しくしないでよぉ…」
ハンカチで涙を拭われ、目元にキスを落とされる。
日本はアメリカを殺せなかった。
どうしようもなく好きになってしまった。
「ずっと痛かった!あなたを騙しているって思ったら心臓がキューってなって、でも嫌いにならなきゃって腕切って、にゃぽんにも話せなくて!」
「そうだよな、もっと早く言ってやればよかったよ」
「ずっと騙しててごめんなさい!父さんがいなくなって悲しかったからって、恨んでごめんなさい!」
「いいんだよ。そうしなきゃ辛いままだったろうから」
泣き続ける日本の背を一定のリズムで優しく優しく叩いてやっていると、そのうちにごめんなさいと小さく呟きながら寝てしまった。
目のクマがひどいのは、仕事のせいではなかったようだ。
「よしよし…俺の方こそごめんな、お前の父親を奪って。お前に優しくするのも、全部俺のエゴだ。ごめんな」
日本は一旦ソファに寝かせて、袖を捲った。
そこには赤く染まる包帯が巻いてあり、ろくに処置していないことが伺える。
痛くないように包帯を外し、アメリカは救急箱をとってきた。
「いつのものかすらわからないな…」
それだけ長い間苦しんでいた日本が可哀想で、アメリカは頭を撫でた。
消毒液で傷口を濡らし、綿で血を拭き取る。
日本は痛みに唸っているが、起きる気配はない。
「これで…よし」
清潔な包帯に巻き直して、アメリカは日本を寝室に連れて行った。
先日、にゃぽんが父さんの遺言書を持ってきた。
「お兄ちゃんがまた思い出しちゃうかと思って、中々言い出せなかったんだけどね…今ならいいかなって。 読んでみて」
『愛する子供たちへ』
と達筆に書いてある原稿用紙は、ずいぶん古びていた。
内容は2人きりにしてしまったことについての謝罪や、僕たちの未来を案じていること、真っ直ぐに生きてほしいことなど。
僕はずっと涙を流しながら読んでいた。
『 自分の心に正直に、誰かに縛られないで生きてくれ』
消した後でぐしゃぐしゃしていたけれど、父さんの字で確かに書かれたその言葉。
僕は、ようやく何かから解放された気がした。
「父さん、こんにちは。今日のお花は、いつもとは違うんですよ」
たった1人のお墓参り。
月見草を置いて、僕は愛する人の待つ我が家へと続く道を辿った。
コメント
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どうも皆様、サカナです わんわん泣く日本ちゃんが見たくて書いてたんですけど、わけわかんなくなりましたね 数時間クオリティな上に推敲してませんが…雰囲気で読んでください ちなみにヒルザキツキミソウの花言葉は、「清純」「無言の愛」「固く結ばれた愛」「自由な心」だそうです