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中学も高校も女子校だったし、大学のときはすでにミルヴェイユに片足を入れていて、交際や合コンよりも会社の方が楽しかった。
入社してからはもちろん仕事に夢中で、彼氏なんて作っている暇はなかったのだ。
だからこそ、こうなってしまって、契約結婚なんてするハメになっている。
それでも、その初めての相手がとてもドキドキする人で、今日一日だって何度も新しいところを発見して魅力があって尊敬できて、そんな人ならばむしろ願ったりなのではないだろうか。
もちろん怖い。
怖いけれど、槙野は絶対酷いことはしない。
それは美冬も断言できるのだから。それについては美冬は槙野のことを信頼している。
美冬をそっと寝室のベッドに降ろした槙野は体重をかけないように、優しく美冬に覆いかぶさって、そっと頬を撫でた。
「美冬、俺のことは名前で呼べよ。知っているよな? 夫になるんだし?」
優しく触れる指にも、その低くて甘い声にも美冬はどきんとして言葉に詰まる。
「祐輔……さん」
「さんは要らない」
「ゆ、祐輔?」
はっ……とため息のような声がもれて、美冬は槙野にきゅうっと抱きしめられた。
「やべ……。お前ってなんで本当にそんなに顔だけは可愛いの」
──顔だけ……。失礼か?
「童顔で好みじゃないとか言われたような気が……」
そうだ、好みじゃないとか散々言われた気がする。
「整っていることに間違いはないぞ。誰が見てもお前の顔は可愛いだろ」
本当にやめて欲しい。
さっきから恥ずかしくて、顔から火が出そう。
「祐輔こそ、なんでそんなに正直なの?」
「真実ほど強いものはないからだ」
そうして、ぐっと下半身を押し付けられた。それで美冬は気づいた。
真実……その真実、ここで証明する必要あるだろうか?
槙野のソレがしっかりと質量を持っている。それをぐいっと美冬の下半身に押し付けられているのだ。
無意識に顔が熱くなっていた。
多分真っ赤なはずだ。
「へーえ? いつもイキリ倒してるくせに、そんな顔しちゃうんだ」
「イ、イキリ倒してなんかないもん。それに、そんな顔って……」
「俺が思わず滾っちゃうような顔」
滾……っ、ホントにやだこの人。正直には程があるでしょ!?
そう思うのに、さっきから美冬の心臓はドキドキと大きな音を立てるだけなのだ。
もー、静まってよ!
「なあ……」
「っ、なに!?」
「本当に可愛いな」
そんな風に言う槙野の顔が本当にとても愛おしいものを見るかのようなので、美冬はとても動揺してしまう。
「可愛いとか……思ってもないこと、言わなくて……」
「ばーか、お前可愛くもないのに勃つかよ」
また、ぐっと下半身を押し付けられて、美冬は黙る。
くすっと槙野に笑われた。
「怖いか?」
本当のことを言ったら怖い。
美冬は男性を受け入れるのは初めてなのだ。
こくっ、と頷いた。
「大丈夫。すげぇ優しくするし、美冬がもっとしたくなるくらい良くしてやるから」
「すごく、ドキドキするの……も?」
「ドキドキしてんの?」
そう言って、いつもみたいにバカにするようにじゃなくて、すごく優しい顔でふわっと笑って、美冬の胸にその大きな手の平を置くので、どきん、としてますます心臓は鼓動を大きくした。
「本当だな。ドキドキしてるのが分かる」
「痛……い?」
「気持ちいいだけだ。美冬、頼むから煽んないでくれないか」
「煽るって?」
槙野は苦笑する。
「お前にそんなこと出来るわけないか。怖いなら手を繋いでろ」
そう言って、槙野が手を差し出すので、美冬は言われたままその手に指を絡めた。
その絡められた指を見て、槙野の口元が微笑む。
その指をゆっくりと口元に持っていった槙野は美冬の目をその肉食獣のような瞳で真っ直ぐ見つめながら口付けたのだ。
指に槙野の唇の感触を感じて、そんな些細なことにも美冬はドキドキしてしまう。
槙野はまだスーツのジャケットを脱いだだけで、ベストも着たままだし、ネクタイも付けたままである。
なのにその雰囲気はとてもセクシーなのだ。
「もう、逃げられると思うなよ?」
ずきっとしたのが、胸だったのか、身体の中心だったのか、美冬には分からない。
けれど、その仕草にさらに頬がカッと熱くなってしまったのは間違いはなかった。
──煽るな、なんて。……煽られているのは私の方なのに。
槙野はベストを脱いでベッドの下に落とし、シュルっと音をさせてネクタイを首から外す。
そのままシャツの手首のボタンを外して、襟元を緩めた。
そんな仕草の一つ一つが野性的なのにエレガントで慣れない美冬はくらくらしてしまう。
すごく、慣れてない?
妖艶で男性的で、野性的な美しさがあって……。
(これは絶対モテるひとだ!!)
「なんだ? なに考えてる?」
「いや、祐輔ってモテそうだなーって……」
くすっと余裕のような表情で笑われて顎を指でくすぐられる。
「モテてももうお前だけだろ。そういう契約じゃないのか」
お前だけなんて言われてきゅんとしたけど、確かにそれは契約だった。
「そうね」
「美冬もだぞ。もう、俺だけしか美冬に触れることは許さない」
──契約……だから。