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苦しい、2人とも苦しい… 颯ちゃんの気持ち良子ちゃんは受け止められないのよぉ… 重くのしかかる言葉だけどずっと続けて欲しい。 いつか、その言葉があったから…になるといいなって…🥺
その日から封筒は眺めるまま、開けることなく1週間が過ぎた。
眺めても、決して嫌な気持ちにはならないから目につくところへ置いてある。
でも開けることはなかった。
佳ちゃん、颯ちゃんからのそれぞれの1通で心が大きく動く気がして、とても疲れてしまったのだ。
不快なものではないけれど、どっと疲れてしまい……続けては読めなかった。
‘この1週間どうでしたか?’
三岡先生は私の代理人というよりは、カウンセラーのようなものかという考えが浮かんでは消え
「変わらず仕事をして…手紙はあのままなんです。あの日の心の揺れが疲れを残しているようで……」
と正直に電話で答える。
‘気分は?’
「悪くないです。ただ刺激が強くて…疲れた感じでしょうか」
‘ずっとそのままでもいい。次に私へ返してくれてもいい。佐藤さんの思うようにすればいい’
「…はい」
‘お兄さんとお会いしました。妹からの電話が助けを求めるものだったと……とても後悔しておられる’
「そんな……」
‘大切な人と会えなくなると、皆それぞれの思いに気づいたり苦しんだりする。脳と心のある人間ですから当然です。それに一人で生きているわけではないのですから’
静かに言った先生が一拍置いて続けた。
‘伝言はお伝えしました’
‘佳佑くんは、伝言ありがとう、と……’
「はい」
‘颯佑くんは……’
先生が言いづらそうに言葉を区切られたので
「泣かねぇよ、とか、うるせぇ、とか…もしかすると、バカまでついていたんじゃないですか?」
‘あははっ…大正解。泣かねぇよ、バカと…泣いているようでした’
颯ちゃんの顔が思い浮かぶ。
「先生、今から手紙読みます」
‘そうですか。私には何時でも電話くれて大丈夫ですから’
「…ありがとうございます」
‘他に、誰かの電話番号をお伝えしましょうか?’
今のスマホには、三岡先生と北川法律事務所の方数名の番号しかない。
「いえ…それは……」
‘必要な時は遠慮なくいつでも’
先生との通話を終えると、封筒を日付順に並べて置く。
佳ちゃんから3通、颯ちゃんから5通。
ふーっ……座ったまま深呼吸をして、佳ちゃんの手紙から開けた。
どの手紙にも、何か困っていないかということが、ありとあらゆる言葉で連なり、文面文脈がおかしくなっている…そこに佳ちゃんの心が見えるようで
「心配かけてごめん……佳ちゃん」
私は、一人きりの部屋にぽつんと言葉を落とした。
肌寒さを感じ暖房の温度を上げてから便箋を丁寧に封筒へ戻すと、颯ちゃんの手紙を手にする。
日付順に開けていくと、そこには
‘会いたい’
‘会いたい’
‘会いたい’
3通見たところで手が震え始め、あと2通は開けないまま熱いココアを入れるためにキッチンへ立った。
一軒家に一人で住んでいたのとは違う便利さ快適さが、単身者用マンションにはある。
ココアの入ったカップを持ったまま、お風呂の湯はりを開始すると……私は元の位置へ座った。
カップを自分の真ん前に置き、視界の中心になるようにする。
そして少し腕を伸ばしカップの向こう側で次の封筒を開ける。
颯ちゃんの手紙に飲み込まれてしまわないように……手紙以外も視界に入れておく。
‘会いたい’
確信を持って、最後の封筒も開けるとやっぱり
‘会いたい’
もう瞼を閉じても、颯ちゃんの字で
‘会いたい’
が思い浮かぶよ、颯ちゃん。
「ごめん…そこはやだ……」