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ぬいぬい
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彼女が革表紙にそっと手をかけた瞬間、屋上の空気が目に見えて重く、淀んだものへと変質していった。
吹き付ける北風はただ冷たいだけでなく、まるで無数の人間の啜り泣きや、言葉にならなかった呪詛を孕んでいるかのように、肌にじっとりとまとわりついてくる。
「覚悟を見せて、と言ったけれど。本当に理解できているかしら」
装丁家の声から、先ほどまでの悪戯っぽい響きが完全に消え失せていた。
彼女の瞳は、光を一切反射しない底なしの沼のように暗く、僕を射すくめる。
「尊が他人の記憶のノイズを吸い上げていたように、私もまた、この街の美しくも悍ましい未練をこの本に綴じ込め、圧殺し続けている。ここを開くということは、それらの悪意とまともに融け合うということよ。、、、あなたようなの脆い人間の精神なんて、一瞬で狂気に呑まれて、自分の名前すら思い出せなくなるわ」
彼女の指先が、本の金色の留め具をカチリ、と外した。
その刹那、僕の頭の中に強烈な耳鳴りが走り、視界がぐにゃりと歪んだ。煤けたインクの匂いと、焼け焦げた紙の臭いが鼻腔を突き刺す。
手の中のルービックキューブが、悲鳴を上げるように激しくガタガタと震え始めた。
「これでも、まだその人の続きを書きたいと言うの?」
押し寄せる圧倒的なプレッシャーに、僕の膝がガクガクと震え、奥歯が鳴る。
恐怖で呼吸の仕方を忘れそうになる。
けれど、ポケットの中にあるあの人のマスターキーが、皮膚を焦がすほど熱く脈打っていた。
あいつは、こんな泥泥とした濁流の中で、ずっと一人でふざけ続けていたんだ。
僕を笑わせ、僕を困らせるために、この重圧を全て一人で背負いながら。
「……だったら」
僕は震える足を無理やり地面に踏みつけ、装丁家を真っ向から睨み返した。
「だったら、なおさら僕が書かなきゃいけない。あの人がボケる必要もないくらい、完璧なハッピーエンドを、僕がこの手で書き殴ってやる」
「……いい目ね」
装丁家が、歪んだ笑みを浮かべた。
次の瞬間、彼女の手によって分厚い本が完全に開かれ、中から溢れ出した漆黒のインクの奔流が、僕たちの足元から世界を完全に塗りつぶしていった。
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最近描かなくてごめーん
病んでた☆
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コメント
1件
うわっ、第14話めっちゃ重かった……!!😭✨ 装丁家さんの「覚悟」の問い、圧がすごすぎて読んでるこっちまで息止まっちゃったよ…。それでも「あの人の続きを書く」って睨み返す主人公、マジでかっこよすぎる…!!ルービックキューブが震える演出、映像的に頭に浮かんだし、ラストの漆黒のインクの世界塗りつぶしで一気に没入感ヤバかった!この先、どうなっちゃうの…展開気になりすぎる…!!✨ 更新ありがとう!!