何か、色々言いたい事があった中で、何も言えずに帰ってきた水路は往きと同じく苦痛に満ちた物であった。
お蔭でナッキを守るように包み込んでくれたメダカ達は新たに傷を負ってしまう事となり、サニーとナッキの回復効果を受けた事によって、最早、メダカとは思えないほどゴリゴリガチガチの漆黒の鎧武者へとトランスフォームを果たしていたのであった。
出迎えた池の仲間たちは僅(わず)かに驚きをその顔に浮かべていたが、これまでナッキやサニーの急激な変化を目撃してきた経験からか、騒ぎになるほどではなかった。
兎に角、恐ろしい水路を越えてニンゲンの集落を訪ね、リーダーのナガチカと会話をし、その後、ニンゲン達が『存在の絆』を失って混乱した為に、一旦戻って来ざる得なかった事をナッキの口から聞かされた面々の内、最初に発言したのはトンボのリーダードラゴである。
「『存在の絆』が…… そうですか…… 私とヘロンだけでなく、他のメンバーも使えなくなっていたんですね……」
本当は良く判ってはいないのだが、ナッキは説明口調だ。
「そうなんだよ、ニンゲン達、ナガチカやユイ、ジローも気が付いていなかったみたいでさ、もう大騒ぎだよ! 緊急事態だぁー、って感じ、特に長老のキトラ爺さんとはさ、言わば戦友な訳じゃん? そりゃ大混乱、超パニックだったよ! ね、サニー?」
サニーも事情通風味で答える。
「うん、彼らは現状の把握ってのと、今後の対策とかについて話し合わなければいけないんだよね、ナッキ?」
「そうそう、そうなんだってさ!」
「なるほど……」
二匹の話に俯いて考え込むドラゴにナッキは言葉を続ける。
「ところで『存在の絆』ってそもそも何なの?」
「へ? 知らなかったんですか? ナッキ様」
「うん、何と無くは判ってると思うんだけどね、離れた相手とかと連絡が取れるんだよね?」
「は、はあまあ…… そうか、そりゃそうですよね、ナッキ様やサニー様ってティターンなんですもんね、それも自力での進化だったら今までの悪魔や神々の常識とかご存じないのも当然、か…… 一通りご説明させて頂いた方が良いですね…… とは言え、弱ったな、色々な悪魔や魔獣の戦い方やスキルなら兎も角、『存在の絆』や聖女、聖戦士の事となると私は殆(ほとん)ど知らなくて…… ヘロンよ、お前はどうだ?」
「残念だが私も詳しくは知らないな、ストラス様は魔神王ルキフェル様直属の配下で、同格の魔王達とも絆によるやり取りを交わしていたようだが、別系統の魔王、バアル様やアスタロト様の手下達とは直接連絡を取る事が出来なかったようだ、勿論『聖女と愉快な仲間達』で三魔神が合流し、後にサタナキア様や友好勢力も加えた事で、ほぼ全ての悪魔や聖女、聖戦士、それに魔獣達と通信可能になったと聞いたんだが…… それ以上の事はぁ、判らんなぁー」
この言葉をサニーが通訳しそれを聞いて、良い反応を見せたのは門外漢ぽい存在、ギンブナのオーリである。
「えっ、今の話からすると、その『存在の絆』ってグループ毎の連絡手段なんでしょう? だけど、グループの上層部、リーダー達が協力するようになったから一つに統合されたって事じゃ無いの? だとしたら、今回の通信障害? の原因ってさ、ルキフェルさん? だっけ? その魔神王がいなくなったとか、配下達との関係を断ったとか、なんじゃないの?」
「うむ、確かにそう聞こえましたぞ」
「ああ、『存在の絆』の大元、ルキフェルさんの身に何か…… 不測の事態っ、安全保障上の重大な事象が勃発したのでは?」
「若(も)しくは自国民を紛争から遠ざける為に、旧来の好戦的な配下を見限って、本来の平和思考に目覚めた、とかかな?」
「ウッシィ……」
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