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「うん、心電図も心エコーも異常ないね」
北斗はうなずいた。彼が常駐する北海診療所で検査を受けた慎太郎は、その言葉に安堵した。
「発作とかは起きてない?」
「最近は全然」
「そっか。じゃあそんなに心配はいらないかな」
シワのない真っ白な白衣を着た北斗は、何だか頼もしく見えた。
「よく…ここまで頑張ってきたね」
北斗はしみじみと言った。
「え?」
「だって、今まで遠い親戚のとこで我慢してきたんでしょ? 病気、辛かっただろうに。しかも記憶にない北海道に来ようと思ったなんて。…俺にはできないや」
「でも、北斗くんは俺とか樹くんの命綱になってるし、ほかにも色んな人を助けてる。お医者さんって、すごいです」
そっか、と薄く笑って続ける。
「……前は、札幌の救急病院でやってたんだ。最前線でたたかってるっていう自負を持ってて、がむしゃらに働いてた。でもこの診療所やってた親父が倒れて、一番近くにいた人を救えなかったって急に無力に思えた。それでここに戻ってきて継いでるんだけど、まだまだだな」
ううん、と慎太郎は首を振る。
「…樹も昔からの患者でさ。一回ひどい呼吸困難起こして搬送されたことあるんだけど、要請するくらいしかできなかった。何もできなくて」
そんなことないです、と慎太郎は言う。
「こないだ倒れちゃったときもすぐに処置してくれてたし、俺が来たときも医者やってるって聞いてすごい安心したんです。町のはずれだから、病院どうしようかと思ってて。北斗くんがいなかったら、ここに住もうとは思わなかった」
それを聞き、北斗はやっと頬を緩めた。
訪問診療に出ていく北斗を見送り、慎太郎は一人家に帰る。
六花荘に着くと、もう当たり前のように優吾やジェシー、樹が迎えてくれた。
そのたびに心がじんわりと温かくなる。
すると、何やら重そうなスーツケースを持った大我が2階から下りてきた。
「もう行くの?」
樹が尋ねた。
「いや、飯食ってから」
「…どこに行くんですか?」
慎太郎は気になった。こんな雪の日に大きな荷物を持って、何の用事があるのだろうか。
「ちょっと仕事で東京から呼ばれて。一応飛行機は飛んでるから。2、3日で帰ってくるよ」
忙しいんだな、と感心した。
夜になってもやはり雪はしんしんと降り続けている。
自室にいた慎太郎は、優吾に呼ばれる声を聞いた。「ご飯食べよ」
ドアを開けば、先に階段を下りる優吾が振り返ってくしゃっと笑う。
リビングでは、テレビを見ながら楽しそうにしている樹とジェシーの笑声が響く。
同じ画面を見つめながら、大我は声はないものの口角を上げている。
北斗は手元の本に目を落としていたが、そんな3人にふと顔を上げて優しい目を向ける。
そんな日常に溶け込めている今。あたたかい時間が、そこには流れていた。
でも……。
いつかはこの空間も、壊れてしまうのだろうか。
そうしたら、自分の居場所がまた無くなるのではないか。
一抹の不安が心を吹き抜けたとき、それに呼応するように心臓が痛む。
きりりとした刺激は、冷たい冬の嵐みたいだった。
続く