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大我が東京へ行った夜。
ちょうど飛行機が飛び立ったあとくらいから、雪が強くなってきた。
「もう吹雪だってこれ、ハハ」
窓の外を見たジェシーが言う。
「笑うとこじゃねーべ。飛行機着くかな」
北斗は眉尻を下げる。
夕食のころからついているテレビのニュース番組では、さっぽろ雪まつりの特集に切り替わった。
「あ、これ慎太郎連れていきたいね。初めてだろうし」
「そうだね」
彼らはもうほとんど慎太郎のことを呼び捨てで呼ぶようになっていた。樹はタメ口でもいいと言ったが、彼の謙虚さは抜けない。
「うん……でも遅くね? さっきトイレ行くって言ったけど…」
慎太郎は数分前にリビングを出たきり、戻ってこない。
優吾が口にすると、北斗の表情が変わる。慌てて席を立った。
リビングの扉を開くと、冷気が入り込んでくる。
廊下の向こうに、うずくまっている慎太郎を見つけた。胸を押さえ、呼吸を荒げている。
「おい! 大丈夫か、落ち着いて」
声を掛けられた慎太郎は、ふらつく足で立ち上がろうとする。
「もう、大丈夫です…」
だが、腕を伸ばして制したのは樹だった。
「待って、動いちゃダメ。きっと酸素が足りてないから。あれ持ってくる」
と2階へ駆け上がっていく。北斗も、「薬取ってくる」と後に続いた。
優吾はおろおろしながらも背中に手を添える。「ゆっくり息しな」
ジェシーも呆然としている。「なんで…」
そして2人が下りてくると、慣れた手つきで酸素スプレーを当てた。「吸える?」
呼吸が落ち着くと、薬を飲ませた。
「ふう…ちょっと急でびっくりした」
北斗も吐息をつく。優吾が尋ねた。
「え、過呼吸? どういうこと? 北斗と樹知ってるの?」
違う、と北斗は首を振った。
「こないだ、俺にだけ打ち明けてくれた。生まれつきの心疾患があってね、今でも不整脈とかが出るんだって。たぶんこの発作はそれ。今日検査で異常なかったんだけどな…」
ただ、と続ける。「やっぱみんなにも言っておくべきだったな」
「俺も知らなかったけど、なんか症状一緒かもって思って。心臓、か…」
樹が言う。わずかに沈黙が流れた。
「…樹も慎太郎もずっと隠してさ…」
ジェシーがぽつりと言う。
「でも…そういうのは言いづらいよ、きっと」
優吾はそっとフォローした。
「今まで病気のことで散々我慢してたなら、せっかくここまで来たんだから全部吐き出しちゃいなよ。俺らなら受け止めてあげるからさ」
北斗のいつになく優しい声で、慎太郎の瞳から涙が溢れだした。
「いつ言えばいいかわかんなくて…北斗くんには話せたけど、みんなにはどう話そうって考えたらもう嫌になっちゃって。みんなに迷惑かけるかもしれないし、ここにいちゃダメなのかなって…」
「苦しいよな」
樹が絞り出すように重ねた。
「俺もわかる。息ができないって、すげえ苦しいし、この苦しみをほかの人にわかってもらえないって辛い。病気の場所は違うけどさ、わかるよ」
でも、と慎太郎の目を見据える。
「ここのみんなは優しいから。俺も人のこと言えなかったけど、やっぱり話したほうがいい。苦しいときはお互い支え合おう」
うん、とうなずいて持っていた酸素スプレー缶を樹に渡す。
「これ、ありがとう」
そしてみんなの顔を見上げる。
「……俺、ここにいてもいいですか。みんなと一緒にいても、いい?」
その問いに、何も言わずに笑ってうなずいた。
嬉しくて、また慎太郎は涙をこぼした。
続く