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第1章 王様の転生
やあ!俺は戸井健司!訳あって王様兼学校の先生をしているんだ!最初は王様ってことを隠してたんだけど俺の頭のいいベイビー(生徒)が気づいて俺にプレゼントをくれたんだよね!はぁ、俺って罪なお•と•こ♡
(詳しくは「王様戸井と謎の小包」をご覧下さい)
今は体育の授業で跳び箱をしているんだ!俺は数学の教師だけどたまにこうやって見に来ているんだ!おっと、誰か来たようだ
「先生!この100段の跳び箱飛んでよ!」
こいつは俺のクラスのKだ。おちゃらけたやつだがいざとなると頼りになるいいやつだ。
「ハッ!俺にできないことはない…!」
「キャーカッコイイー(棒読み)」
構える俺!聞こえてくる声援!風を切りながら走る俺!息を飲んで見守るベイビー!俺は力強く踏み切り板を押した。
……あっこれ無理だ。
バコーン!
「キャー!!!」
どうやら俺は頭から跳び箱に突っ込んだらしく、みんなの悲鳴が聞こえてきた。
「誰かほかの先生を呼んで!!」
「俺、伊藤先生呼んでくるよ!」
「じゃあ私はAEDを!」
「うちはカービィを呼んでくるよ!」
くっ、もうだめだ。
最期に一言言っておこう。
薄れゆく意識の中で俺は言った。
「跳び箱で跳びバコーン」
「……は?」
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どのくらい眠っていたのだろうか。目を開けるとそこには知らない天井があった。これ漫画でよく見るヤツやん!ここは病院カナ!?
すると誰かの声が聞こえた。
「つかさちゃーん早く起きないと遅刻するわよー!」
つかさ?つかさって誰?
すると勢いよくドアが開いた。そこには知らないおばさんがいた。
いや誰!?
そのおばさんは俺の方を見て言った。
「もー!早く起きなさい!つかさちゃん!」
「つかさって俺!?」
「なーに言ってんのよ、早く準備しなサイドステップ!」
「あぁ…うん、準備しようかなぁ……」
準備ってなんの準備だよ!
「俺ってなんの仕事してたっけ?」
「何言ってんのよあなた︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎アイドル”じゃない。」
「えぇぇぇぇえええええ!!!!」
第2章 俺がアイドル!?
一旦整理しよう、俺がつかさって名前で?今日なんかあって?俺がまさかの?可愛いを売りにしてる?アイドルだって?ぇぇえええ!?え、え?え!やば!え?俺が!!アイドル!?えええええ!?
なんかおかしいと思ったんだよ、よく見たら部屋は薄紫色だし!ぬいぐるみは沢山あるし!何より俺!もっこもこの可愛いパジャマ着てるやんけぇ!まぁ、とりあえず(?)女の子だから俺…じゃなくて私ね!
ケータイとかカレンダーとか日記を見る感じいつもはジャージで行ってるみたい。運がいいことに集合場所とか練習場所とかメモされてるからまだ良かったけど……。うーん、まぁイケるか!俺……じゃなくて私はそこら辺にあったジャージを手に取り、着替え、家をあとにした。
〜事務所〜
「おはよーございまぁす……」
「おはようございます、つかささん。あれっ?今日はタクシーじゃないんですね!」
「え゙っ」
この人マネージャーかな。てか、やばぁい!そういうとこ考えてなかったぁ!……あっ!
「ダイエット!ダイエットです!最近ちょっと増えちゃって……」
「あーなるほどです。でも出来れば変装とかして欲しいです。有名人気アイドルなんで!今日は特にライブなので……」
ふぅ、何とか乗り切った、……え?
「ちょっと待って、もう1回言って?」
「今日ライブ…」
ええええええぇえぇぇえ!!!
「どうかしましたか?つかささん」
これは……正直に言った方がいいやつ?え、でも急に私実は転生したんですぅ。とか言っても信じてもらえんだろうしなぁ……。何とかやるしかないか。
「いえ、大丈夫です!ライブまであと何時間ですか?」
「あと4時間です!」
「わかりました!それまで練習しておきます!!」
「了解です、ライブが始まる30分前に移動をするのでそれまで頑張ってください!」
〜楽屋〜
「失礼しまーす……」
「「「「つかさちゃん!」」」」
「へっ!?あ、はい!!」
「つかさちゃん、待ってたわよ!今日のメイクはピンク系統よ!いい感じの甘さが出てリスナーもイチコロよ!」
この人はメイク担当?なんかすごい……大阪のおばちゃん見たい(失礼)
「つかさちゃん!今日の衣装はフリフリ多めではあるけど控えめでなおかつイメージカラーの紫を入れてるわ!今日のメイクと合わせてリスナーもメロメロよ!」
この人もなんか……大阪のおばちゃん見たい(失礼)
「つかさちゃん!今日のライブの歌はすっごいよ!リスナーも一緒に踊って歌って楽しめるメニューになってるの!」
この人は歌?というかボイストレーナー?なのかな、結構普通の人だなぁ。最後はこの人か、
「つかさちゃん……」
「はい!」
なんだなんだ?なんか元気ないぞ??大丈夫カナ!?
「ダンスの振り付け、覚えれた?」
……え!?ダンス!?聞いてないって!!
「ごめんなさい……覚えれてないです。」
チラッ
「いえ、大丈夫よ。一緒に覚えましょう。」
優しいんだが!まじ感謝感謝!
「ありがとうございます!」
そこから3時間半は歌だのダンスだの、超超超鬼レッスンだった。その甲斐あってか……
「すごい!つかさちゃん!テンポもいいし音程もばっちり!本番が楽しみね!」
「ありがとうございます!」
「つかさちゃん、すごいわ。今回難しいダンスなんだけど完コピしたわね。あとは本番で決めてきてね。」
「ありがとうございます!」
うげー、まじできつかった、、。
「これ今回のポスターよ!」
「あ、ありがとうございます!」
『あなたの毎日に☆ド直球アイドル☆ToiToi参上!』
……うぇっ!?私アイドル名ToiToiなの!?しかも絶妙にダサいし!!えぇ….(困惑)まじ?
まあ、頑張るか(?)
「つかささーん、そろそろお願いしまーす」
「あっはーい」
どうしよう、ドキドキしてきた。心拍数がどんどん上がっていく。フリフリの衣装、大きくて可愛いリボン、可愛い自分。聞こえてくるリスナーの声、背中を押してくれるマネージャーたち、見に来てくれてる親。
……どれもが初めてで慣れないことばかり、
「ちょっとだけ……怖いかも」
いや、きっと大丈夫。私はそう自分に言い聞かせ、ステージに上がった。
第3章 ライブ
「ウオオオォォォォォォォ!!」
ステージに立った途端、ものすごい歓声が聞こえてきた。マイクを持つ手が震えてる。大丈夫。きっと大丈夫。
♪〜
音楽が流れ始める。大丈夫。だってあんなに練習したもの。歌い出し、大きく息を吸った。
「あ・な・たのアイドル〜サインはD〜〜!ちゅっ♡」
「「うりゃおい!うりゃおい!」」
あれ?大丈夫かも?
「ようやく会えたね、嬉しいね、待ち遠しくて足をバッタバタしながら今日楽しみで寝れなかったよー!」
「「おれもー!」」
たくさんのリスナーと一緒に歌ってる……!!
リスナーがいる中に1人だけめっちゃ目立つ人いるなぁ……。私への愛激しすぎでしょ!
最初の不安が嘘見たい!
なんか……楽しいカモ!?
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ライブ終盤、私は今凄く楽しい。終わりたくない。もうずっとことままでいたい!
スッ…
「……?」
なんだろう、今ステージ裏に誰かいた気が……。でも知らない人だらけだし、もしかしたら気のせいかも!
「今日は来てくれて本当にありがとうー!みんなのおかげで最っ高のライブになりました!また、この場所で会いましょう!そして!この後の握手会!楽しみにしてます!それじゃあ!またねー!」
〜握手会〜
「今から握手会始めまーす!」
「こんにちは!」
「こんにちは、えっと、あ、応援してます!」
「ありがとう!」
「はい、時間デース。」
フッたくさんのリスナーがいるぜ☆やっぱ私って罪なお・ん・な♡おっと次のリスナーが来たようだ。
「こんにちは!」
「……こんにちは、応援してます。」
「ありがとう!」
……あ、この人さっきの目立ってた人だ。
笑顔の男性。声も普通。服装は…やっぱ少し目立つ。
推しカラーの紫が多い服で、似合っていない訳じゃないのに目が離せなかった。
――手を離す直前。
「……ずっと、見てるからね。」
一瞬だけ力が強かった気がした。けど、次の人が来たから私は笑顔に戻るしかなかった……。
〜ライブ&握手会の終わり楽屋〜
「失礼しまーす!」
「「「「「つかさちゃん!」」」」」
「え!あっはい!」
「今日のライブ最高に良かったわよ!やっぱ今回のダンスとフリフリ衣装は会うわね!超可愛かったわ!」
「ライブ大成功だね!すっごく楽しかったわ!お顔も、私のメイクとつかさちゃんの顔で超絶可愛かったわ!」
「ライブすごく良かった!やっぱつかさちゃん才能があるね!聞いてるこっちまで歌っているような感じだった!次も頑張ろうね!」
「つかさちゃん、よく頑張ったわね。とてもすごいわ。次から少し難しくなるけど一緒に頑張りましょう。」
「はい!!!!」
いやーそれにしても楽しかったなぁ。……あっ!
「そういえばライブ終盤ら辺にステージ裏にいた人って誰ですか?」
……シーン。
あ、聞いちゃいけないやつかな。
「ごめんなさい!忘れてください!」
「つかささん言いにくいんだけど、ライブ中にステージ裏に行った人なんて居ないよ。僕らはずっと会場の出入口付近にいたからね。」
「……あっそう…なんですね。」
見間違い……かぁ。
そんな私を見てマネージャーは言った。
「不安なら警備を増やすこともできるよ」
警備か、でも多分見間違いなんだよなぁ。ただのカーテンが人に見えたとか、そんなんだろうし。
「いえ、大丈夫です!多分見間違いなので!ありがとうございます!」
「ところでみんな今日の打ち上げどこにする?」
「いつものところでいいんじゃない?」
「えっ打ち上げ……ですか?」
ええーどうしよう。
「もちろん、来てくれるわよね?(キタイノマナザシ)」
「そうよ、主役がいないとつまらないし!(キタイノマナザシ)」
「じゃあ、行きます!」
まぁせっかくだし行ってもいいか。
〜打ち上げ会場〜
「今日のライブ成功に〜?」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
「いやー大成功だったねぇ!」
「私感動しちゃった!ウェーン」
「やだぁほんとに泣かないでよー」
「そういえば次のライブっていつですか?」
「2週間後だよ」
……え!はや!
「わかりました予定入れておきます。」
ピロンッ
メール?こんな時間に誰だろう。
送り主は…書いてない、内容は
『今日のつかさちゃん、可愛かったね。でもその姿を俺以外の人に見せちゃ行けないぜ☆俺だけのつかさちゃん♡ゲへへへへへへへ』
えぇ……。何だこのメールゥ。
「?どうしたの?つかさちゃん?」
「あっなんか気持ちの悪いメールがきて、」
「大丈夫?警察行く?」
「あー……いえ!メールブロックしておくので大丈夫です!」
「そう?まぁ何かあったら早めに言ってね」
「はい!」
「よし!じゃあせっかくの打ち上げ!気を取り直して思いっきり楽しみましょー!」
「「「「いぇぇぇぇぇぇぇぇええい!」」」」
……こうして私のアイドル生活が幕を開けたのだった!
第4章 日常
有名人気アイドルではあるけど基本的には結構暇らしい。強いていえば1日2時間のダンス練習、歌のレッスンぐらいであとは何もない!無さすぎる!
……こんな時私は何をしてただろうか。
まぁとりあえずダンス練習行ってみるか。
――――家を出て少し経った頃。
なんかめっちゃ着いてくるんだけど、この人!え!ちょっと、もー何!?ずーっと着いてくるんだけど、えぇ?多分私今ストーキングされてる。ファンかな?でも顔もよく知らないし、てか見えないし!
そんなことしてたら事務所着いちゃったよ。どーしましょ。
「ちょっとそこのストーカー!?」
ハッ!この声は!
「可愛い後輩をストーキングするなんて!この来夢(らいむ)が許さないわ!覚悟しなさい!」
……誰だこの人。
「チッファック!」
ドタドタァ!
「ふん、大したことないじゃない!」
この人……先輩か。てか強!
「あ、ありがとうございます。先輩!」
「べ、別にあんたの為じゃないんだからね!」
私は瞬時に理解した。こいつ……ツンデレだ。
「何ぼーっとしてるのよ。早く行くわよ!」
「あ、はい!」
私は先輩のあとをついて行った。
〜ダンス練習する場所〜
「ちょっとマネージャー!?」
「あぁ、はいなんでしょうか。」
「はぁ、もうちゃんとつかさちゃんのこと見ておきなさいよ。今ストーキングされてたのよ。何かあったらどうするのよ!」
「すみません気をつけます。」
先輩はすごくぷりぷりしていた。一応謝っておこう。
「ごめんなさい先輩!私も気をつけます!」
「……はぁ!?」
「!?」
「あんたは何も悪くないんだから謝らなくてもいいわよ!」
優しい先輩……?なのか分からないけど
「ありがとうございます!」
守ってくれるならすごくありがたい。
「じゃあ私もう行くから、ちゃんとやりなさいよ!」
「はーい!ありがとうございましたー!!」
なんだかんだ言っていい人か。
〜ダンス練〜
「じゃあつかさちゃん、ダンス練始めるよ。」
「はーい」
――30分後――
「つかさちゃんもう少しテンポよく!」
「ぐえー」
きつい、きつすぎる!
「もう無理です!」
「あら、あなたの力はその程度だったのね。」
「うっ……。」
「それじゃあ歌のレッスンの方に行きましょうか。」
〜歌のレッスン〜
「つかさちゃん!待ってたわよ!さ、早く始めるわよ!」
――30分後――
「はい!つかさちゃん!そこはMIXボイスよ!」
「ぐぇー!!」
思ってたよりキツすぎて、死ぬぅ!
てかアイドルソングでMIXボイス使わないだろ!
(※MIXボイス=普通の歌声と裏声の中間の声)
「つかさちゃん!そろそろ休憩する?」
「はぁい、そうします。」
〜休憩室〜
「あっ!先輩!」
「あら、奇遇ね。貴方も休憩?」
「そうなんです……!思ってたよりレッスンがきつくて……。」
「まぁ、最初はそんなもんよ。」
「そうですか……なら頑張ります!」
「「……」」
聞いていいかな。あのこと。
「先輩……」
「何よ」
「どうして私を助けてくれたんですか?」
「それは……」
「先輩……?」
先輩はよく見ると少し泣いていた。そして泣いているのを隠すように下を向いて話し始めた。
「……私もストーキングされて怖い思いをしたのよ。誰も気づいてくれなかった、たまたま先輩が通りかからなかったら、ここにいないと思う。」
「……。」
「もし、あの時誰もいなかったら私、今頃どうなっていたか……。」
「……。」
「だから私みたいな思いをして欲しくなくて……助けたの。」
「先輩……。」
先輩が振り向く、その顔はいつもの先輩とは思えなかった。私が言葉を失っていると先輩は慌てて言った。
「…別にヒーロー気取りじゃないから、勘違いしないでよね!」
「先輩……前は誰も助けてくれなかったかもしれないですけど、今は違います。」
「……。」
「先輩はひとりじゃないです。私もいますから。」
「「……」」
気まずい沈黙が流れた。
「……ダメですか?」
「…………はぁ、あんたってほんとお人好しね。勝手にしなさいよ。」
「!先輩……!」
「ただ!私の足、引っ張らないでよね!」
「……!はい!」
「ほら、休憩終わりよ。」
そう言って先輩は立ち上がった。
「泣いてたこと、誰にも言ったら承知しないから!」
「はい!」
そう答えると、先輩は一瞬だけ――
本当に一瞬だけ、安心したように笑った気がした。
休憩室を出る直前、
ガラスに映った自分の姿が目に入った。
今日の服――やっぱり、少し目立つかも。
「……気をつけよ。」
その時は、それ以上深く考えなかった。
この日常が、いつまでも続くとその時は、まだ信じていた。
第5章 壊されたもの
今日はライブ。いつも通りのライブなはずなのに、何か落ち着かない。服が目立つのか、それとも――
どこからか、目線を感じる。
でも、振り向く勇気はなかった。
〜楽屋〜
「おはようございまーす。」
楽屋が、やけに騒がしかった。
笑い声でも、準備の慌ただしさでもない。
「……え?」
聞こえてきたのは、低い声と、焦った足音。
「ちょっと、これ……」
「誰が最後に触ったの?」
嫌な予感がした。 胸の奥が、きゅっと縮む。
私は足を速めて、楽屋をのぞいた。
言葉が、出なかった。
そこにあったはずの衣装は――
フリフリだったスカートは裂け、 リボンは無残に切られ、 紫の布地には、鋭く走る傷。
とてもじゃないけど、 ステージに立てる状態じゃなかった。
「うそ……」
誰かが、息を呑む音がした。
「……これ、故意だよね」
「事故じゃない……」
私の頭に、ひとつの言葉が浮かぶ。
――壊された。
その瞬間、 朝から感じていた“視線”の正体が、 はっきりと輪郭を持った気がした。
楽屋の空気は、重かった。
スタッフたちの視線が、私と、壊された衣装の間を行き来している。
「…… どう、しますか」誰かが、小さく言った。
ライブ開始まで、あと数分。 着替え直す時間なんて、ない。
「……すみません」
私の声は、自分でも驚くほど小さかった。
「私のせいで……」
その時だった。
「違うでしょ」
はっきりとした声が、空気を切った。
「――悪いのは、壊したヤツよ」
顔を上げると、来夢先輩が前に出ていた。 腕を組み、まっすぐステージの方を見ている。
「ライブは中止しない」
「え…………?」
「私が出る」
ざわ、と周囲が揺れた。
「ちょ、来夢さん!?」
「急すぎます、準備が ――」
「問題ないわ」
来夢先輩は振り返って、私を見た。
その目は、いつもの強気な先輩のまま――
でも、どこか優しかった。
「後輩が守られる側で終わるなんて、気に入らないの。それに、ステージは、逃げる場所じゃないでしょ」
「……先輩」
「つかさ」
急に 名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。
「アンタは、ここでちゃんと見てなさい」
「そして――」
一瞬、言葉を切ってから。
「必ず、自分のステージに戻りなさい」
来夢先輩はそれだけ言うと、スタッフに向き直った。
「衣装、私のでいくわ」
「曲順? そのままでいい」
「フォーメーションは少し変える、指示出すから」
迷いはなかった。
――数分後
ステージに立ったのは来夢先輩だった。
「みんな、待たせたわね」
会場がどよめく。
「今日は少し予定を変えるわ」
「でも……楽しませるって約束は変わらない」
力強い声。堂々とした姿。
私は、ステージ袖からそれを見ていた。
(……かっこいい)
胸の奥で、何かが燃え始める。
壊されたまま、終われない。
奪われたまま、終わりたくない。
そして私は、確信した。
――このライブを壊した犯人を必ず、自分の手で突き止める。
来夢先輩の声が、会場を支配していた。
力強くて、迷いがなくて、観客の視線を一身に集めている。
――すごい。
私はステージ袖で、拳を握りしめてそれを見ていた。
悔しさと、安心と、情けなさが混ざったような気持ち。
その時だった。
「……あ」
違和感。
会場の熱気の中で、ひとつだけ、温度の違う視線を感じた。
最前列より、少し後ろ。
ペンライトを振っていない。
周りが跳ねているのに、動かない。
ただ――
来夢先輩じゃなく、ステージ袖の私を見ている。
(……なんで)
心臓が、嫌な音を立てた。
照明が一瞬、暗転する。
その刹那。
その人が、笑った。
ライブを楽しむ笑顔じゃない。
優越感みたいな、
「思い通りだ」と言わんばかりの顔。
――見覚えがあった。
(……あ)
脳裏に、フラッシュバックみたいに浮かぶ。
握手会で、最後に残った感触。
少しだけ、強く握られた手。
『ずっと、見てるからね』
あの声。
あの距離感。
(同じだ……)
喉が、ひゅっと鳴った。
視線を逸らそうとして、逸らせなかった。
向こうも、気づいたのか、私を見て――
ゆっくりと、口を動かした。
――読めた。
「俺だけの」
ぞわり、と背筋が凍る。
(この人が……)
ライブを壊したのも。
衣装を、ズタズタにしたのも。
「……っ」
思わず、一歩前に出そうになる。
その瞬間。
ステージ上で、来夢先輩がターンした。
ライトが弾ける。
その光の中で、犯人の顔が一瞬、影に沈んだ。
――逃げる気だ。
(逃がさない)
胸の奥で、はっきりとした怒りが形になる。
怖い、だけじゃない。
悔しい、だけでもない。
これは――
取り戻すための怒りだ。
私は深く息を吸った。
(大丈夫)
来夢先輩が、ステージを守ってくれている。
なら私は――
「……終わったら、捕まえる」
小さく、でも確かに、そう呟いた。
照明が再び輝く。
歓声が、さらに大きくなる。
誰も知らない。
このライブが、もう一つの意味で――
決着の場になることを。
――ライブが終わり、会場はまだ熱気に包まれていた。
拍手と歓声、スタッフの声、機材を運ぶ音。
その全部が、少し遠くに聞こえる。
(……いた)
私は、人の流れの中にその人影を見つけた。
出口に向かうでもなく、
物販に行くでもなく、
ただ――様子を伺うように立っている。
逃げ道を探してる。
私は、深呼吸した。
感情が先に出たら、負ける。
(大丈夫。冷静に)
わざと、少し距離を空けて近づく。
声をかけるには、まだ早い。
すると、その人が振り返った。
目が合う。
一瞬だけ、驚いた顔。
でもすぐに、作ったような笑顔に変わる。
「……あ、つかさちゃん。お疲れさま」
(やっぱり)
「ありがとうございます。来てくれたんですね」
私は、いつものアイドルの声色で答えた。
「もちろん。今日も可愛かったよ」
周りには、まだ人がいる。
ここで騒ぐ気はないらしい。
(じゃあ、揺さぶる)
「……あの」
私は、少し困ったように首をかしげた。
「今日の衣装、どう思いました?」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、
相手の視線が、泳いだ。
「……え?」
「紫、好きって言ってましたよね。握手会の時」
沈黙。
「……あれ、覚えてないですか?」
私は、笑ったまま続ける。
「手、ちょっとだけ強かったの。印象に残ってて」
空気が、ひやりと冷える。
「……偶然でしょ」
声が、低くなった。
「そうですね」
私は、あっさり肯定した。
「偶然かもしれません。でも――」
一歩、近づく。
「ずっと見てるって言葉は、偶然じゃないですよね」
相手の表情が、完全に固まった。
「……何が言いたい」
「今日の楽屋、誰が自由に出入りできましたか?」
答えない。
「スタッフさんは、入退室記録があります」
私は、静かに続ける。
「でもファンは――
関係者のフリをすれば、入り込める」
「……証拠は?」
「ありますよ」
私は、ポケットからスマホを取り出した。
「衣装に残ってた、同じ色の繊維。
あなたの服と一致してます」
完全に、息を呑んだのが分かった。
「……っ」
その瞬間。
「そこまでよ」
聞き慣れた、凛とした声。
「来夢、先輩……!」
人混みを割って、来夢先輩が現れた。
さっきまでステージに立っていたとは思えないほど、冷たい目。
「いい加減にしなさい」
犯人を、真正面から睨む。
「後輩の人生を壊してまで、
“自分だけのもの”にしたかった?」
「……黙れ」
「黙るのは、あんたの方よ」
来夢先輩は、一歩前に出た。
「ここには、警備もスタッフもいる」
周囲を見渡す。
いつの間にか、距離を詰めている警備員。
「逃げ場はないわ」
犯人は、歯を食いしばり――
そして、力が抜けたように肩を落とした。
「……っ、くそ……」
その瞬間、警備員が動く。
「こちらでお預かりします」
人の波に、連れて行かれる背中。
私は、胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくり吐いた。
「……終わった」
来夢先輩が、私の方を見る。
「よくやったわね」
いつもの強気な声。
でも、どこか優しい。
「……先輩が、ステージ守ってくれたからです」
「当たり前でしょ」
少し照れたように、そっぽを向く。
「後輩なんだから」
その言葉で、全部が報われた気がした。
壊されかけたものは、
確かに傷ついた。
でも――
私は、ひとりじゃなかった。
第6章 壊された、その先で
『6月30日、都内ライブ会場で起きた器物損壊事件について、警察は**会社員・河田容疑者(38歳)**を逮捕しました。犯人は「俺だけのものにしたかった」などと供述しており――』
あの事件の後、私はまだアイドル活動は続けていた。できるだけ明るく振舞っているが少しだけ視線に敏感になってしまった。
ファンからは「無理をしないで欲しい」や「怖くてもう出ないで欲しい」など、たくさんのことを言われた。
私は先輩やマネージャー、ファンに守られてる。でも、縛られてる感じ。
「私は壊れてないのに……」
ピンポーン
「はーい、」
ガチャッ
「……!先輩!」
「これ差し入れ、」
「ありがとうございます!」
「あんた今後のアイドル活動どうするつもり?」
「それは……」
「無理をするなとは言わないわ、代わりに……あんたが、自分で決めなさい。」
「……!」
「私から言えることはこれぐらいよ、あとはあなた次第。」
「わかりました、先輩」
「じゃあ私もう行くから」
「はい……!また今度。」
バタンッ
先輩、帰っちゃったなぁ……。……気分転換に散歩でも行こうかな。
……見慣れた風景。普通の服装、メガネに帽子。少し心配だけど大丈夫。怖いからこそ立ち向かう、それが私だから。
〜貸出制体育館〜
今、私の目の前に100段の跳び箱がある。お店の人に用意してもらった。
前は失敗した。あの時はカッコつけだったからまだ怖い。怖いけど。怖いとわかってる今の方が前よりちゃんと、踏み切れる気がした。成功してもいいし、失敗してもいい。『逃げなかったこと』が大切だもの。怖いから、やめるんじゃない、怖いからこそ、私は私でいることを選ぶ。
私は構えた。今度は声援も息を飲む音も聞こえない。
踏み切り板の前に立つ。
音がやけに大きく響いた。
静かすぎて、
自分の呼吸と、心臓の音しか聞こえない。
――失敗したら?
そんな考えが浮かんで、すぐ消した。
失敗しても、いい。
今日は、成功しに来たんじゃない。
助走をつける。
短く、強く。
踏み切る。
その瞬間、
ほんの一瞬、足が遅れた。
あっ……
手は届いた。
でも、体が追いつかない。
跳び箱の縁に、膝が当たる。
バランスを崩して、前に……
バコーン、という鈍い音。
視界が白く弾ける。
床の冷たさ。
頭の奥が、じん、と熱くなる。
「……っ」
声が、出なかった。
頭が、くらっとする。
でも――
逃げなかった
その感覚だけは、はっきり残っていた。
次の瞬間、視界が暗くなった。そして私はそのまま意識を失った。
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━━━━━━━━━━
━━━━━━━
「……先生!」
誰だろ、何か聞こえる……?
「……戸井先生!」
その呼び方に、胸の奥が、すとんと落ちた。
ああ、そうだ。
私は――戸井健司だ……。
スゥッ
「ウワァァァァァァァァァァ!」
「ウワァ戸井先生生き返ったー!」
「「「「ワァァァァァァァァァァ!!!!」」」」
あ、え、もしかして……
「元に戻った!?」
「もー何言ってるんですか戸井先生。みんな心配してたんですよ!頭強打したきり30分も眠ってたんですよ!?」
「あ……まじ…ですか。」
「戸井先生生き返ってよかったね!」
「ちょっと言い方!」
「へへ笑」
……壊されたものは、確かにあった。でも私は、戻ってこられた。
TheEND
265
6,417