如月さんが来るまでの間に、少し僕は寝てしまっていた。背伸びとあくびして、窓の近くでまたあくびをする。もうそろそろだろうか。横目で時計を見て、また瞼を閉じようとした。その時、風鈴の輝かしい音が二つに増えた。僕は急いで窓の外を見た。ああやっぱりそうだ。僕の口角が自然と上に上がる。少し茶色が混じった黒髪をしっかり結んだポニーテールに、セットしたのであろう綺麗な前髪。肌はアクアマリンが似合うブルーベースで、この辺の田舎ではあまりいない色白。大体平均の身長で、ぱっちりとした大きな二重の目は誰もが振り返る恵まれた容姿だ。容姿だけでなく、性格も誰もが胸を打たれる優しい心の持ち主であった。穏やかに笑う笑顔はとても素敵だ。あぁ、ほら見てよ。今もこっちを見て微笑んでる…。
「え?!き、如月さん?!」
僕は思わず慌てて声を荒げた。そう。如月さんが僕を見ていたのだ。視線に気づかれたのだろうか…。
「おはよう、青野さん。その様子だったら、今までずっと寝てたのかな?」
目を細めてくすっと笑いながら如月さんは言う。その笑顔で赤くなった僕の顔はまるで林檎のようだった。だがずっとこんなままではいられない。せっかく話せるチャンスなのだから。僕はそう自分に言い聞かせ、やっとの思いで声を出す。
「お、おはようございます!如月さん…は、ぶ、かつ?だよね、。夏休み中なのに凄いですね…!」
「ありがとう。敬語じゃなくても良いよ、同い年だし。じゃあもう行くね。」
動揺してギクシャクしながら話した僕に対して、ハキハキとまるで台本があったかのように言葉を並べる如月さん。もう感情が複雑に絡まって、何を話せば良いか分からなくなった僕の口からは、僕でもびっくりするような事を言ってしまった。
「あ、あの…!連絡先、交換しない?!RINEでもインヌタでも!如月さんが持ってるアプリ!」
如月さんは驚いたようで、目と口を開けてしばらく止まっていた。だが、少ししたらいつもの明るい笑顔で
「良いよ!RINEで良いかな?QRコードでやる?」
と言った。僕は嬉しくなって、自分でもなかなかしないような満面の笑みで頷いた。
その後のことは僕のこの幸せな顔を見れば言うまでもないだろう。そうさ、如月さんと連絡先を交換できたんだ。
しかもさ、聞いてくれよ!QRコードで交換するから、僕と如月さんが急接近したんだ!近くで見る如月さんは本当に綺麗だったよ…。まつ毛も長くて手も凄く素敵で。RINEのプロフィールも可愛かったなぁ。大体海とか青い色にしてた。今も如月さんと会話をしてるんだ。なんて言えば良いんだろうなぁ…。本当に高嶺の花って感じ。スタンプも可愛くて、笑う表現は「w」じゃなくて「笑」だった。本当に清楚で素敵だなぁ…。ニヤニヤしながらスマホを見つめる僕を、何か汚いものを見るような目で従姉妹が見る。
「なんだよ花梨!僕のイケメンさに見惚れてたのか?」
「ばか言わないでよかっちゃん!その真逆なんだけど!」
眉間にしわを寄せて怒ったように従姉妹の花梨が答える。花梨は僕の従兄弟で近所に住んでいる中学一年生の女の子だ。こんな感じで友達の少ない僕に唯一話してくれる友達のような関係。生意気なのは気に食わないが、話していてはとても楽しい。
「なにスマホばっか見てんの?また動画?」
そう言って花梨は強引に僕のスマホ画面を覗き込む。
「おいやめろよ!」
僕が止めた頃には遅かった。
「え!これ葵ちゃんじゃん!」
「…は?!お前知り合いなのか?!」
「知り合いも何も、同じ小学校だったからよく遊んでもらってたの。知らなかったの?今もよく話すよ。私もRINE交換してるし。」
僕は衝撃の事実に驚きを隠せなかった。なんだ、身内に知り合いがいたのか…。そこからもっと情報提供して貰えば良かった、とため息をつく。
「それで、葵ちゃんの事好きなの?」
悪魔のようにニヤニヤしながら問う。僕は驚いて、早口になりながら一生懸命否定する。
「素直になってくれれば、私がたくさん情報提供するけど。好きなタイプなり好きな人なり。」
僕を煽る様に言い放つ。僕は歯を食いしばって答えた。
「そうだよ。ほら素直になった。如月さんと僕の関係協力してくれるんだな?お前は今から恋のキューピットだぞ!」
「分かったって。じゃあ、早速何が聞きたいの?」
自分のスマホを片手に足を組み、僕に花梨が問いかける。楽しそうながら、どこか残念そうに悲しくスマホの画面を見つめる花梨はなんだか不思議だった。
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まって笑笑