そう思って注視すれば、想と同じような軽トラや2tトラックなどが結構な台数停まっているのが見えた。
(工事でも始めたのか?)
全く無縁の相手なら、ここまで気になりはしなかっただろう。
だが、結葉の絡みでどうしても目がいってしまう。
どうやら動物病院そばに隣接する形で新築工事をしているようで、雰囲気的にみて駐車場の一角を潰す形で自宅を作っているみたいだった。
(そう言や、タワマン売るって話だったしな)
結葉との協議の内容をふと思い出した想だ。
結葉に確認を取ったわけではないから入金などに関する詳しいことはよく分からない想だったけれど、件のタワーマンションは、立地的にも設備的にも悪くない物件だったから、割とすぐに売れたのかもしれない。
結葉に売値の半分を渡したとしても、そこそこにまとまった金が手元に残るのかな?と思った想だ。
想は建設関連の仕事に就いているから、見れば色々と気になってしまうし、大体の建築費用などの相場も分かってしまう。
(二階建ての3LDK……ってところかな)
土台の上にプレカットされた木材が家の形に組み立てられた建方工事の段階まで進んでいたので、何となくそんな感じかな?と思った想だ。
(あれ、一人で住むにゃあデカすぎんだろ)
大体この感じだと建坪が三〇坪ちょいの、延床六〇坪くらいの三人家族想定の家だ。
もしかしたら両親でも呼び寄せて親子三人で暮らすんだろうか。
そこまで考えて、何となく違和感を感じた想だ。
五ヶ月も経っているのだし、もしかしたらあちらはあちらで再婚でもしたのかもしれない。
あんなに結葉に執着していた御庄偉央が?と思うと変な感じもしたけれど、結葉に孫の顔を見せなかったと責めた偉央の親のことを思えば、早々に別の女性を充てがわれてしまったのかも?とも思って。
そこで信号が青に変わって、想は思考を中断して車を発進させたのだけれど――。
出入りしているらしい業者の中に、懇意にしている材木屋を見つけた想は、何となく話を聞いてみようかなとか思ってしまった。
教えてくれるかどうかは分からないけれど、まぁ一人ああでもないこうでもないと実りのない妄想を繰り広げるよりはマシだろう。
***
「想ちゃん、私ね、山波建設に出入りしてる宮田木材さんで事務員をさせてもらえることになるかも知れないの」
やるにしてもパートタイマーなんだけど……と付け加える結葉に、奇遇だなと思った想だ。
今日、みしょう動物病院で見かけた、懇意にしている材木屋が正にそこだったから。
「いつ面接?」
聞いたら、「面接っていうのかな……。明日直接先方さんに出向いて……私の能力を見て頂くことになってるの」とか。
どうやら父・公宣が、ある程度は話を付けてくれているらしく、先に向こうの社長に履歴書だけは見てもらったんだとか。
「表計算ソフトなど、ある程度パソコンが使えるんなら問題ない」
宮田社長はそう言ってくれたらしいのだけれど――。
「それでも私、ブランクがあるし。うまく出来なかったら不安だから……実技を見ていただいてから最終判断してくださいってお願いしたの」
その辺りがクソ真面目な結葉らしいなと思った想だ。
「んな面倒なことしねぇでうちで働けばいいのに」
何の気なしに言ったら、「公宣さんにもそれ、勧められたんだけど……それだと絶対甘えが出ちゃうから」と、結葉が眉根を寄せた。
本当結葉はどこまでも真面目だよな、と思ってしまった想だ。
そういうところがまた結葉らしくて好きだったりするのだが、まぁ、本人的には生きにくいかも知れないな?とも思って。
そこでふと想はちょっぴり関係ないことを考えてしまった。
「なぁ、結葉。俺とのこと、ずっと保留にしてるのって……もしかしてお前自身の気持ち以外に何か理由があるんじゃねぇか?」
ふと思いついてしまった手前、聞かずにはいられなかった想だ。
「えっ、な、んでそんなこと……」
「違うのか?」
もしそうじゃなければ、結葉がこんなに長いこと返事が出来ない理由は〝断りづらいから〟になってしまう。
想としてはそんな風には思いたくないのだ。
「違っ、……わ、ない」
明らかに一瞬「違う」と言おうとして。
だけど想の真剣な目を見た途端、良くも悪くも馬鹿がつくぐらい真面目で正直な結葉は、嘘がつけなくなってしまったらしい。
「――ごめんなさい、想ちゃん。私、本当に煮え切らないね」
言いながら、結葉がとても申し訳なさそうにしゅんとして謝るから、想としてはその先に踏み込みづらくなってしまった。
「……なぁ結葉。何がお前の気持ちに歯止めを掛けてんのか、俺に話してくんねぇか?」
結葉に気付かれないよう小さく吐息を落とすと、
「俺にはそれを聞く権利があると思うんだ」
想は、結葉をじっと見つめた。
***
「――場所、移してからでもいい?」
想の真剣な眼差しに、結葉はとうとう観念したのだけれど。
いま二人がいるのは山波家のキッチン。
たまたまみんな他所にいてこの場にいないけれど、いつ誰が来てもおかしくない共有スペースで話すのは、さすがにはばかられてしまった。
結葉は、「出来れば二人きりで話せる場所に移りたいの」と、想を不安に揺れる目で見上げる。
「だったら……少し見せたいモンもあるし、ちょっと外に出ないか?」
想の部屋は公宣と純子の主寝室に近い。
かといって結葉の部屋は芹の部屋の隣だったから。
夕飯後、各々が自分達の部屋で思い思いに過ごしている時間帯ではあったけれど、ゆっくり話すなら家を出た方が良いと、想は判断したらしい。
「夜に勝手に家を出ても平気……?」
まだ、偉央の監視下にあった時の癖が抜け切らない結葉は、オロオロと想を見上げて。
「声掛けりゃ平気だろ」
一応同居している手前、何も言わずに抜け出すのは想も良くないと思ったらしい。
言うが早いか、想は廊下に出て、階段下から二階に向かって声を張り上げた。
「なぁ! 俺、結葉とちょっとドライブして来っから!」
「――こんな夜にぃ〜?」
想の呼びかけに、芹がひょこっと階段の上から顔を覗かせて。
想は「デートだよ、デート!」と、悪びれもせずに答えて、芹に意味深な表情をさせた。
芹は――と言うよりこの家の家族みんなが――想と結葉が想い合っていることに、何となく勘付いていたりする。
なのに全然進展しないのは何らかの事情があるんだろうことも薄々察してくれている様で。
「とりあえず玄関、チェーンロックは掛けねぇようにしといて?」
想が言うと、「了解」と芹が答える。
「父さんと母さんは?」
「多分映画鑑賞中。そんな音がしてるから」
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