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試験終了の合図とともに、
無人島での長い一週間は幕を閉じた。
疲労に包まれながらも、
Dクラスの生徒たちの表情には確かな達成感が浮かんでいた。
堀北さんは悔しさを滲ませながらも、
今回の経験を通して自分の限界と仲間の大切さを知ったようだった。
桔梗ちゃんは明るい笑顔で皆を労い、
平田くんはクラス全体を穏やかにまとめている。
そして綾小路くんは、
相変わらず何事もなかったかのような静かな表情で立っていた。
豪華客船に戻った夜。
温かいシャワーを浴び、
柔らかなベッドに身を沈めたはずなのに、
ひなの胸はなぜか落ち着かなかった。
無人島での出来事が次々とよみがえる。
彼の言葉。
繋いだ手。
「俺の隣にいろ」という約束。
気づけば、ひなの足は自然とデッキへ向かっていた。
夜風の吹く甲板。
月明かりに照らされた海を見つめていると、
背後から静かな足音が近づいてくる。
「やっぱりここにいたか」
振り向かなくてもわかった。
綾小路清隆。
「どうしてわかったの?」
「なんとなく、そう思った」
それだけの言葉なのに、
ひなの胸は温かくなる。
二人は並んで手すりにもたれ、静かな海を見つめた。
「無人島でのこと、夢みたいだった」
ひながぽつりと呟く。
「現実だ」
綾小路くんの淡々とした返事に、
思わず小さく笑ってしまう。
「……私、本当に変われたのかな」
中学時代、人の視線に怯えていた自分。
男性に対して苦手意識を抱いていた自分。
そんな自分が、
今こうして誰かを心から信じている。
綾小路くんは静かに答えた。
「変わったかどうかは重要じゃない」
「え?」
「お前が今ここにいて、前を向いている。それだけで十分だ」
その言葉に、ひなの目が潤む。
「でも……もしまた怖くなったら?」
彼は迷うことなく答えた。
「その時は、俺のところへ来ればいい」
ひなの呼吸が止まりそうになる。
綾小路くんはひなの方へ向き直り、
そっと白い髪に触れた。
潮風に揺れる髪を、優しく指先ですくう。
「お前は、思っている以上に強い」
「……綾小路くん」
「そして」
ほんの少しだけ間を置いて、
彼は静かな声で続けた。
「俺にとって、かけがえのない存在だ」
その瞬間、
ひなの瞳から涙があふれた。
綾小路くんはそっと涙をぬぐい、
小さな体を静かに抱き寄せた。
温かくて、安心できる腕の中。
「泣くな」
「だって……うれしくて……」
彼の胸元に顔を埋めながら、
ひなは震える声で答える。
「私も……綾小路くんが、一番大切」
彼の腕に込められる力が、ほんの少しだけ強くなった。
「……そうか」
短い言葉。
けれど、その声はこれまでで一番優しかった。
月明かりの下、
二人はしばらくそのまま寄り添っていた。
まだ「好き」という言葉は交わしていない。
それでも、
互いが特別な存在であることは、
もう疑いようがなかった。
無人島で見つけたもの。
それはクラスの絆だけではない。
ひなにとっての、本当の居場所。
そして、
無表情な彼の心の中に確かに存在する、
自分だけの特別な場所だった。