テラーノベル
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扉の向こうは、影が渦を巻く深淵の間だった。床は黒曜石のように冷たく、空気は重い。最深部に座すのは、深淵の守護獣《アビス・レパード》。豹の輪郭を持ち、全身が影で構成されている。目だけが赤く光り、周囲の影を自在に操る。
「来たか」
「来たな」
低く、砂利を噛むような声が空間に響く。幹部の冷笑を思わせるその声に、三人の背筋が凍る。
「行くよ!!」
「右から来る」
「気をつけて」
戦闘は一瞬で激化した。アビス・レパードは影を伸ばして攻撃し、地形を変え、式神の輪郭を引き裂こうとする。僕の式神は何度も弾かれ、凛ちゃんは光の壁を張り続ける。灼は炎を放つが、怪我の影響で火力が安定しない。Aランクの力は圧倒的で、周囲の冒険者たちも苦戦している。
「私、逃げない」
「二人を守る」
灼は膝をかばいながらも前に出る。痛みが顔を歪めるが、彼女は叫んだ。炎が放たれると、影が一瞬だけ揺らぐ。だが灼の魔力は乱れ、炎は不安定だ。アビス・レパードはその隙を突き、影の爪を振るう。灼は吹き飛ばされ、地面に倒れる。
「灼!」
「大丈夫か?」
「立って、立って!」
僕は叫び、式神を突進させる。凛ちゃんは光で灼を包み、応急処置を施す。だがアビス・レパードは冷笑を浮かべる。
「面白い。お前の炎は、ただの炎ではないな」
「何だと?」
その言葉に、僕の胸がざわつく。幹部の言葉を思い出す。灼の中に、何か特別なものがあるのかもしれない。
灼は地面に手をつき、血を拭いながら立ち上がる。目は赤く光り、炎が彼女の周囲で異様に揺らめいた。痛みを超えた何かが、彼女の中で目を覚まし始める。
「私……二人を守りたい……!」
「その声、届いてる」
「届いてるよ、灼」
灼の声は震え、しかしその中に確かな決意が宿る。炎が一瞬、純粋な光のように変わり、影を焼き尽くす。アビス・レパードの動きが一瞬止まる。
「今だ、全力で!」
「行くよ!」
その瞬間を逃さず、僕たちは全力を合わせる。凛ちゃんの光が式神と灼を包み、僕は式神に全てを託す。炎、光、影が交差し、アビス・レパードの影の構造が崩れ始める。式神が胸元に噛みつき、灼の炎がその体を焼き尽くす。影は悲鳴のように散り、最深部に静寂が戻った。
「やった……」
「やったね」
「生きてる?」
「うん、生きてる」
アビス・レパードは崩れ、黒い霧が消え去った。床に残されたのは焦げ跡と、三人の荒い呼吸だけだった。歓声が上がり、周囲の冒険者たちが駆け寄る。だが僕たちはその場に膝をつき、互いの顔を見た。
「ありがとう」
「一緒にいたからだ」
「これからどうする?」
「まずは戻る」
ダンジョンの光が収束し、制覇の証が三人の前に現れた。ギルドの報告で、制覇報酬は確かに1000万円。街は一時的な祝祭に包まれ、ニュースは三人の名を伝えた。だが歓喜の裏で、灼の炎の異変はギルドの目にも留まっていた。幹部が興味を示した理由は、ただの偶然ではない。灼の中に眠る何かは、これからの物語の核となるだろう。
夜、三人は小さな部屋で静かに座り、手を取り合った。疲労と安堵、そしてこれから来るであろう試練への覚悟が混ざり合う。窓の外、裂け目の残滓が薄く揺れている。世界はまだざわついている。だが三人の影は、夕日に溶けるように重なっていた。
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