テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
本当に偶然だった。愛空達とボーリングした後に彼奴と会うなんて俺は思わなかった。だがそいつは俺と目が合ったのにも関わらず無視しようとしたからつい手が伸びて、そいつの袖を掴んだ。
「おい!流石に挨拶くらいはしろよな!」
「はぁ?なんでお前にしなきゃいけねぇんだよ」
「昨日まで同じチームだっただろうが!知り合いなんだから挨拶しろよ」
「…はぁ、わかったよ。……よぉ 」
「次から最初から言えよ」
「…善処する」
色んな意味で少し疲れてしまった。此奴何なんだよ…。世界11哲の冴様か。此奴の実力は事実だけどもやっぱり態度は気に入らない。でも、あんまり話した事ないから上辺だけで決めつけるのは良くないよな…。
折角だから話してみるか。近くにいい感じのカフェあるし。
「な、なぁ冴。この後予定とか……ある?」
「予定…?……無いけど」
「!よかった……じゃあ近くのカフェで話さねぇ?」
「……やっぱり帰る」
「いやいやいや、待て待て待て」
ほっんとに此奴帰ろうとしやがった…!少し位付き合えよ。確かにお前とは不釣り合いかもしんねぇけどさ。
本当に帰ろうとしてる彼奴の腕を掴み、帰るのを阻止する。でもやっぱり力強い。だがこっちだって意地がある。負けてられない。
「なんだよ。帰るから離せ」
「誘ってるのに断るのかよ!?」
「断る」
「いいから!」
自分でも思う。めっちゃ子供っぽい引き止め方だなと。だが、これを逃したらいつこんなチャンスがあるか分からねぇ。暫く粘ってたら諦めたのか力が抜けた冴のせいで勢いよく身体がぶつかってしまった。向こうも咄嗟だったのか支えてくれたけど、これ抱かれてない?
一瞬ドキッとしたのは気の所為だろうか。にしても此奴、すげぇいい匂いがする……。少し意識が遠くなりかけたけど冴の声で現実に戻される。
「……おい、そろそろ離れろ」
「え、あ……わ、悪い!」
すぐ離れたけど、よくよく考えたらお前が急に力抜くからじゃねぇか!と言いたくなったが多分何言っても此奴は「知るか」って言いそうだから諦める。
「……で、行くんだろ」
「え」
「だから、付き合ってやるから早く動け」
「なんでそんな上から目線なんだよ!?」
ほんとに此奴……って言う気持ちを抑えながら近くのカフェに入る事にした。外はかなり冷えるからホットカフェオレを頼んだけど彼奴はホットコーヒーを頼んでいた。
やっぱり此奴、何してもかっこいい奴になるんだなと自分と少し比べてしまった。生憎席はテーブル席が埋まっていた為二人でなら座れるスペースのあるソファに座ることにした。
「テーブル席空いてなかった。なんかごめん」
「座れただけマシだろ。気にするな」
その後他愛もない話をした。サッカーだったり、世間話だったり。あと弟の凛の話にもなり兄弟いる同士の話になったりとか色々あった。俺は末っ子だからどちらかというと甘やかされるタイプだった。兄としての気持ちとか聞けるのは少し貴重だなと思った。
でも途中からずっとこっち見てるのがどうしても気になった。何か顔についてるのか?と疑問に思ったが何にも言わねぇし…。
「おい、なんだよ。まじまじと見て。すっげぇ恥ずかしいんだけど…」
「……。」
え、此奴聞こえてる!?なんで何も言わねぇんだよ!怖いんだが!?
「え、ちょっとなんか言えって!ゴミか何か着いてる…?」
え、ほんとになんなんだ此奴。理解できねぇ…!てかほんとにどこ見てんの?手を目の前で降ってみたりとかしてみたけど無反応。怖い怖い、なんなの?
「いや、可愛いなと思って」
え、今此奴なんて言った??可愛い?え、聞き間違いかな?此奴の口から「可愛い」って単語出るのか。いや、さっき弟の会話で出てたわ。でもそれは昔の話であって、今その言葉を向けたのは俺で…?
「はぁ!?」
過去一でかい声出してしまった。というか顔めっちゃ熱い。なんなんだ?さっきまで寒くて飲んだホットカフェオレの熱さじゃない。照れてる…のか?俺。自分の姉や兄に「可愛い」は言われた事あるけど、それは兄弟だからで…。他人から言われたのは此奴が初めてだ…。ほんとに何なんだよ此奴。
「すまん、間違えた。お前ピアス空けてたんだなと思ってな」
そう言いながら冴の手は俺の耳に触れた。なんか壊れ物を触るかのように優しく触られてる。凄く擽ったいし、触れられた所が凄く熱い。な、何か喋らないと持たない…心が。
「あ、あぁ。オフの時とかに着けてるし…。ピアスとか着けてるとそれだけでお洒落じゃん? 」
「まぁ、それもそうだが…」
それっぽいというか、理由それなんだけどもな。少しテンパってる。そりゃあんな事言われた後だったら当たり前なんだけど。
……なぁ、何時まで触ってんの?そろそろ離して欲しいんだけど。そろそろ辞めて貰おう。
「な、なぁ。恥ずかしいからそろそろ触るの辞めてくんない?擽ってぇし…」
おい。なんだよ。その鳩が豆鉄砲食らったかの様な顔は。此奴無意識?え、怖ァ。この王子様。冴様。
「いや、悪い。触りすぎたな」
あれ、此奴普通に謝れるんだな。失礼な言い方だけど。冴の手は漸く俺の耳から離れた。まだ耳が熱い。
「普通に謝られると思ってなかった」
「謝る事位俺にだってできる」
そうだよなぁ。うん。それが当たり前なんだよな。俺も失礼な事言っちまったし謝ろう。
「そ、そうだよな…ごめん」
手が離れてもまだ俺の耳見てない?此奴。そんなに俺がピアス空けてるの意外だったのかな。
「そう言えばなんで今日着けてねぇんだ?オフだろ」
言われて俺は思い出した。さっきまで愛空達とボーリングしてたのを。だから俺がピアス穴あるの分からなかったのか。今日みたいな距離、試合の時もあったけど試合は試合だから見る訳ないし。
「んぇ?あー…さっきまで愛空達とボーリングしてたからその時邪魔で一旦取ったんだよ。その後絡まっちまってさ…」
俺はそう言いながらさっき外したピアスを見せた。今日はただの集りだと思ってたからチェーンピアスにしていたのが仇になった。外す予定も無かったから予備も無いし。持っておけば良かったなと今更ながら後悔してる。
「まぁ、こうなったらなかなか取れないからさ…。予備も無いし」
複雑に絡まったチェーンピアスを再び仕舞う。家帰ったらちゃんと解こう。ピアスで思った事がある。
此奴、お洒落なのにピアスは着けないんだな。というか、空いてない?それがあまりにも意外だった。
「お前もピアス着けてそうなのに着けて無いんだな…ちょっと意外」
「そうか?」
「お前、めっちゃお洒落だからさ。着けてるイメージがあったんだよね。」
「空けたとしても色々大変だからやってねぇだけだ」
「まぁ、それは確かに」
俺も空けた時大変だったなぁ。ちゃんとしないと雑菌入ったりするし、安定するまで時間はかかるし。此奴忙しいからそりゃあ空ける時間無いもんな。
そして、気づいたら夕方になっていた。冬だから日が落ちるのが早い。流石に帰らないといけない。そろそろ帰るかと話になり席を立って店を出た。
「それじゃ気をつけて帰れよ」
「お前が気をつけて帰れよ」
「はぁ!?どういう意味だそれ!?」
此奴、なんで愛空達と同じ事言うんだ?そんなに俺って危なっかしい?流石に大人だし、変な人にはついて行かねぇよ!
「なんなら送っていくか?」
此奴…。俺を小さい子供か何かにでも見えてんのか?しかもなんで普通にそれ言えるんだよ。友達にでも言わねぇよそんな事。
「んな事必要ねぇよ!恥ずかしい!」
ほんとになんなんだろうか。此奴兄貴だから優しいだけなのかも知れない。優しい…?いや、此奴は優しくねぇ。恥ずかしくなってまた顔が熱い。少し気になってる事がある。
「……さっき可愛いって言ったのって本気か?」
「は?」
聞こえないように言ったのに聞かれちまった。もうこれはヤケだヤケ!
「さっき言ってただろ。俺の事可愛いって……。間違えたって言ってたけど本当なのかなと思って…」
本当に冗談であって欲しいと思った。いや、そう言って欲しいと願っていた。そんな訳ないと。だけども
「……あぁ、可愛いと思った」
え、嘘じゃねぇの?マジ?すっごくドキドキする……。なんでだ?ふと我に帰って
「ど、何処がだよ!?普通かっこいいって言うべきじゃねぇの!?」
危ない、危ない。何か流されそうになった。どうか聞こえないで欲しいと思いながら
「可愛いなんて言われたの初めてなんだよ…」
兄弟以外からはな。聞き返して来ないって事は聞こえてないのだろう。いや聞かないで欲しい。多分自分は凄く顔が真っ赤だろう。冬の寒さなんて感じないほど凄く顔が熱い。
俺はようやく自分のアパートへとの帰路へ着いた。今日の冴と話になったピアス。あいつはどんなのが似合うだろうかと考えてしまった。いや、彼奴なら何でも似合うだろうな。
「…絶対カッコイイよな。彼奴のピアス」
それは誰もが思うことだろう。でもどんなピアスが似合うか考えてしまった。もし、もし空けてくれたら似合うピアスを送りたい。
俺のセンスで良ければ。
そっと彼奴に触られた耳を触る。あの時の感覚はまだ残ってる。彼奴の彼女になった人はこれだけで幸せになれるだろうな。男の俺でさえドキドキしてしまった。
「……ほんとにイケすかねぇ王子様だな。彼奴は」
俺は気づきたくない、この感情は知りたくないと言わんばかりに日が完全に沈むのを窓から見届けた。
コメント
2件
ルナちゃんー! めちゃ素敵✨️ いい小説をありがとう