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なんとかリヒトを教育的指導(回し蹴り)し、暴走列車を止めたその深夜──
「すまなかった。」
「いえ、なんというか…その、おあいこですから。」
自傷的な笑みを浮かべ、ゆっくりとハイネに向き直るヴィクトール。
その目には見覚えがあった。
あの夢の中、その目に溺れそうになったのを覚えているから。
「……どうされましたか…?」
「ああ、いや。なんでもないよ。」
「ただ、君が走って、私との関係を必死に否定している姿が…
なんだか、とても、可愛らしかった。」
ハイネは、一瞬言葉を失った。
「……か、可愛らし……?」
「ふふ。子供のハイネには、もう言われ慣れた言葉なんじゃないかい?」
そう言って微笑むヴィクトールの目は、どこまでも優しくて、
けれど同時に、どこか遠いものを見るような寂しさを湛えていた。
「……からかっているのですか」
「そんなことはない。君が焦って、リヒトを追いかけて――
あのまま捕まえて叱り飛ばして……その姿を、少し離れて見ていたんだ」
「……ご覧になっていたのですね」
「うん。……教師の顔も、必死な顔も、君にはどちらもよく似合っていると思った」
ハイネは言葉を探したが、何を返すのが正解なのかわからず、ただ黙って立ち尽くした。
「だけど、私の名前を呼んだときの君は……」
ヴィクトールの目が、まっすぐにハイネを射抜く。
「まるで、別人のようだった。
夢の中で見た、あの“ハイネ”そのものだった」
「……!」
「だから、たぶん、私は――
現実よりも夢の中に、君を閉じ込めたくなるのかもしれないね」
「それは……残酷です」
ハイネの声が震えた。
「現実では、あなたの傍に立てないと、そう仰るのですか」
「……いや、違う」
ヴィクトールは一歩、ハイネに近づいた。
「私が、君のそばに立つ資格がないと思っているんだ」
「……それでも」
ハイネは、ほとんど祈るように目を伏せた。
「私が……“ヴィクトール”と呼んだのは、ただの夢のせいではありません」
「……」
「あなたが……私にとって、そう呼ぶべき人だからです」
静かに、けれど確かに、空気が揺れる。
目を合わせれば、何かが壊れそうで。
でも、逸らせばきっと、永遠にすれ違ってしまいそうで。
「……ハイネ」
「……ヴィクトール」
次に触れれば、それはもう後戻りできないものになるとわかっていても――
ふたりはただ、そっと手を伸ばしかけていた。
そのとき。
「……ねぇセンセー、父上〜〜? まだ起きてる〜?」
「……リヒト王子」
「……教育的指導、今度は私がしようか」