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永遠に届く声

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永遠に届く声

24 - vierundzwanzig .

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2025年05月11日

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深夜二時を過ぎた頃。王宮の廊下は、まるで息をひそめるように静まり返っていた。

人の気配も、声も、何もない。

ただ、遠くで灯る燭台の揺らめきと、どこかから聞こえる時計の針の音だけ。


そんな静寂の中。


ハイネは、また陛下の部屋の扉の前に立っていた。


ノックはしない。ただ、そっと手を置くだけ。

すると――中から、まるでそれを待っていたかのように、ゆっくりと扉が開いた。


「……来ると思っていた」


「陛下……」


「ヴィクトールでいい」


ハイネは一瞬ためらい、それでも、目を見て応じた。


「……では。ヴィクトール」


その一言が、ふたりの間に何かを灯す。

淡く、あたたかく、そして、切なく。


ヴィクトールは部屋の中へと招き入れ、ハイネはためらわず足を踏み入れる。

寝巻のままのヴィクトールと、薄い上着を羽織ったハイネ。

互いに夜風の冷たさを纏いながら、それでも心の距離は、ほんの少しずつ近づいていた。


「……君の声で、名前を呼ばれるのは、不思議な気分だ」


「わたくしも……少し、震えました」


「怖いのかい?」


「いえ。ただ……嬉しいのです。これほどまでに、名前を呼ぶことが、意味を持つのだと知って」


ヴィクトールが笑う。けれどそれは、どこか翳りを帯びた笑みだった。


「……ハイネ」


「はい」


「本当はね、何度も、何度も――夢の中で君を呼んでいたよ。けれど、君はいつも遠くにいた」


「それでも、貴方の声は、ずっと届いていました」


目と目が合う。


名前を呼ぶだけで、心が震える。

言葉はもういらないと、そんな風に思える夜だった。


「ヴィクトール」


「……ハイネ」


二人の間に距離はなかった。

手も、肩も、頬も、触れられるほど近くにある。

けれど――触れない。


触れてしまえば、すべてが壊れてしまいそうだった。


「……もう少しだけ、こうしていてくれないか」


「もちろんです。貴方が望むなら、わたくしは……」


ハイネの声が少しだけ掠れる。


「何度でも、貴方の名を呼びます」


「……ありがとう。ハイネ」


そうして静かな夜に、ふたりの名前だけが、淡く、優しく響き合っていた。


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