ここでの生活も慣れてきた頃、この家に来て初の俺の嫌いな時期が襲いかかった。
四六時中曇天の空に大量の雨
テレビを観ていても、イヤフォンをしいても、それを易々と突き破ってくる雨音が、さらに"雨"を実感させた。
今日もそんな感じでなかなか寝付けず、"いい子は寝る時間"は とっくに過ぎてしまった。
ここに住んでからは、それはもう新しいことや楽しいことに少しばかり心を踊らせ、4人とも軽い冗談を言えるくらいにはなったのに、久しぶりに"あの日"を思い出してしまって、思い出せば思い出すほど、余計に苦しくて、怖くて…泣きたいわけじゃないのに、涙が自然と込み上げた。
あぁ、ほんとに嫌だ,,怖い…
なんで、、なんで俺だけこんな思いしなきゃいけないの…。
たすけて…,,
自分の部屋から出て、気づけば勇斗の部屋の前にいた。
そして流れのままに扉を小さくノックした。
「…ん?仁人?どした?」
『…。』
「寝れんの?雨だし…てか、泣いてる…?とりあえず、部屋ん中おいで。寒いっしょ」
部屋に入ると、ウッディのような重厚感のある香りに一気に包まれた。
本当は迷惑なんてかけたくない、ないんだけど、今日だけでいい…一度だけでいいから、、お許し下さい
「んで、どしたの」
『…抱いて欲しい,,』
「…え?」
『もう苦しみたくない,,俺の記憶を…上書きして』
涙ぐみながら、心許なさそうに言った。
「仁人はそれでいいの?」
小さくコクっと頷けば、温かな笑顔で俺の手を取った。
ベッドに座り、俺を膝の上に乗せると、 頬を伝う涙を優しく指で拭った。
「怖かったり、痛かったりしたら遠慮しないで言うんだかんな?」
すると両手で俺の耳を塞ぎ、優しく唇を重ね合わせた。
耳を塞ぐこの手がイヤフォンよりも、どんなものよりも有用で、あんなに嫌だった雨音が耳に入らず、代わりに二人の重なるリップ音と漏れる吐息が脳内をいっぱいにした。
「怖い?」
『怖くない…』
「笑笑笑…かわい」
キスの流れに身を任せて後ろに倒れると、手馴れたように服を脱がせた。
俺の体を見るのは今日で2度目で、見るや否や目に悲しい影が過ぎった。
「これ…まだ痛い…?」
『もう痛くないよ 』
「…。」
『汚いから、あんまり見ないで…。』
「汚くない、綺麗だよ 」
そう言って傷や跡を見つける度に、そこにキスをした。
それからというもの、俺を愛おしい恋人のように甘く優しく抱いた。
そして初めて人のベッドで、人の腕の中で、眠りについた。
明け方になると雨はすっかり止んでいて、窓に付く滴が太陽の光を拡散させた。
目を覚ますと、勇斗はまだ隣ですやすやと眠っている。
そういえば、一回もバックでしなかったな…
ほんとに男前過ぎるよ…,,
行為中、勇斗は絶対に自分の顔が見えない体制ではしなかった。
きっと、顔が見えないと不安になると思ったからだと思う。
他にも、定期的に大丈夫かと声をかけてくれたり、水を飲ませてくれたり、頭を撫でてくれたり…
今までに感じたことの無い程の愛をそのたった一晩で感じた。
寝返りを打ち、こちらに向く勇斗の頭を優しく撫でた。
勇斗、ありがと…
数分すると勇斗が目を覚まし、 俺の顔にそっと手を伸ばした。
「体は…?大丈夫…?」
『うん…。昨日はごめん、もう大丈夫だから』
「そう?またいつでもきていいから。もちろん晴れててもね」
『ありがと。』
「んーよし!じゃあ朝ごはんだー」
『笑笑笑』
二人で笑い合いながら階段を降りた。
そしていつも通りの騒がしい5人の朝を過ごした。
end.
コメント
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続き気になります!!