図書館を出ると、冷たい雨の匂いがした。
外はもう真っ暗で、街灯の下に雨が白く光っている。
翔太はドアの前で立ち止まり、軒下にしゃがみ込んでいる蓮を見つけた。
「…..傘、ないの?」
蓮は顔を上げて、少しだけ照れたように笑う。
声を出さずに、口の形で「忘れた」って言う。
翔太は苦笑いして、
「ほんとお前、昔から変わんねぇな」
と呟きながら、傘を開いた。
「ほら、入れよ」
蓮は一瞬戸惑うけど、
翔太の顔を見てから、ゆっくり立ち上がって傘の中に入った。
距離が近い。雨の匂いと、蓮の体温が混じる
「濡れてんじゃん」
翔太が言って、ハンカチを差し出す。
目黒は少し驚いたように受け取って、小さな声で、
「…..ありがとう」
翔太はその声にハッとする。
数秒の沈黙。
でもすぐに笑って、
「…..あ、喋った」
目黒は恥ずかしそうに顔をそらす。
「…..たまに、ね」
「聞けてよかった」
翔太がぽつりと言う。
「…..お前の声、ちゃんと覚えてたからさ」
蓮が少し驚いたように振り向く。
その視線が、まっすぐ翔太を捉えた。
「覚えてたの?」
「当たり前だろ。昔、よく笑ってただろ。あの声、忘れるわけない。」
蓮は少しだけ笑って
「…..そんな前のこと、よく覚えてるね」
翔太は傘を持ち直しながら
「忘れられるわけないだろ。お前の声、結構、好きだったし」
と小さく呟いた。
蓮は何も言わなかった。
でも、口元が少しだけ震えて笑った。
雨が傘を叩く音が二人の間に落ちる。
その静けさが、妙に心地よかった。
「…..ねえ、翔太」
「ん?」
「また……図書館、来る?」
「決まってんだろ。お前がいるし。」
蓮は笑って、空を見上げた。
雨の中、街灯の光がにじんで、二人の傘の中だけが、やさしく光っていた。
コメント
12件
めめなべほんまにとおとい……
相合傘最高!! しょっぴー優しいじゃん🤣
神作品すぎる😣✨ 六花様、ほんと癒しをありがとう(*T^T)