テラーノベル
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「ねえ」
沈黙に耐えかねたように、結衣が身を乗り出した。
テーブルに置かれた彼女の細い指先が、僕のカップのすぐそばまで近づく。
「……なに?」
「さっきの『そうだね』、どういう意味?」
いたずらっぽく笑っているようにも見えるし、本気で答えを待っているようにも見える、危うい表情。
彼女の瞳の奥に、窓の外を流れる雨粒と、困ったように眉を下げた僕の顔が映っている。
「どういう意味って……言葉通りだよ。雨、止まない方が、君が風邪ひかないで済むし」
「嘘つき」
結衣は短くそう言って、僕の右手に自分の手をそっと重ねた。
冷たい雨に打たれていたはずの彼女の体温が、驚くほど熱く、僕の肌に伝わってくる。
「私は、雨のせいにしてサボりたいだけ。……君と一緒に」
外の喧騒を完全に遮断したような、二人だけの狭い世界。
土砂降りの雨音が、今は心地よい子守唄のように聞こえた。
僕は重ねられた手を振り払うこともできず、ただ、冷めていくはずのコーヒーが、いつまでも熱を帯びているような錯覚に陥っていた。
コメント
1件
(・∀・)イイネ!!つづきまってまーす