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ひより
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鷹槻れん

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世羅 鈴🎨🎤
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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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その日の午後。
神殿の周囲は、割れんばかりの大歓声に包まれていた。
「聖女様!」
「シェリー様、今日もありがとうございます!」
民衆の熱烈な崇拝を一身に浴びていたのは、一人の少女。柔らかなピンクの髪。砂糖菓子のような、赤い瞳。
この帝国では、魔力を持つのは原則として皇族の血を引く者だけ。けれど、ごく稀に平民にも魔力を持つ者が生まれるという。
なかでも――。平民でありながら治癒魔法を使えるのは、彼女ただ一人。
本作のヒロイン、聖女シェリーだ。
「カイル殿下! お越しをお待ちしておりました!」
カイル殿下が馬車から降りるなり、シェリーが天使のような満面の笑顔で駆け寄ってくる。
「…………」
二人が並んだ姿を見て、思わず納得してしまった。
(……やっぱり、絵になるのよね)
民を救う心優しい聖女と、誰よりも帝国の未来を想う皇太子。ゲームでは、誰もが応援する王道カップルだった。
(そりゃそうよね)
本来、カイル殿下の隣に立つのは――シェリーなのだ。すかさず、高位神官が揉み手で進み出てきた。
「殿下。ぜひ併設の診療所にて、聖女様の奇跡の治癒をご覧いただきたく存じます」
「ああ。……ソフィア、お前も――」
カイル殿下が私へ手を差し伸べた瞬間。神官たちの視線が、一斉に凍りついた。
(はいはい。『悪役が殿下と聖女様の時間を邪魔するな』って顔ね)
ゲームでも、この視察はカイル殿下とシェリーが距離を縮めるイベントだったはず。でも今の私に、恋愛イベントへ付き合っている暇なんてない。
(どうぞ、ごゆっくり)
(私は他にやることがあるので)
「殿下。私は先に、皇室から寄贈した物資の保管状況を確認してまいりますわ」
「一人で大丈夫なのか?」
「アンナもおりますし、殿下からいただいた許可証もございますもの」
「……そうか……」
カイル殿下は、あからさまに不満そうに眉を寄せた。
「終わったら、すぐ来い」
「ええ」
カイル殿下たちが診療所へ向かうのを見届ける。私は、アンナを振り返った。
「よし、神殿へカチコミよ!」
「望むところですっ!」
私たちは意気揚々と、神殿の管理棟へ乗り込んだ。
***
神殿の地下倉庫前。
「皇室から寄贈された物資の保管状況を確認したいのですけれど」
「……妃殿下が、ですか?」
担当官が露骨に眉をひそめた。
「倉庫の管理は神殿の管轄でございます。帳簿などをご覧になっても、妃殿下にはお分かりにならないかと」
(ふん。失礼しちゃうわね)
私は笑顔のまま、一枚の羊皮紙を鞄から取り出した。
「では、これならお分かりいただけるかしら?」
「……これは」
「カイル殿下直筆の監査許可証よ」
担当官の顔色が変わった。
「皇室寄贈物資について、受領台帳・配布記録・保管状況すべてを確認する権限を、殿下から正式にいただいておりますの」
「し、しかし……」
「それとも――」
許可証をひらりと持ち上げる。
「皇太子殿下の命令を、神殿が拒否したとご報告しましょうか?」
「……っ!た、ただちにご案内いたします!」
「あら。物分かりが良くて助かるわ♡」
担当官が青ざめながら頭を下げる。隣でアンナが、親指を立てた。私たちは、そのまま地下倉庫へ向かった。
***
神殿の地下倉庫。
「始めるわよ」
「了解ですっ、お嬢様!」
倉庫管理台帳を開く。薬草石鹸の項目を探し――。
「……あったわ」
【薬草石鹸 500箱受領】それだけ。
「……ほかの受領記録は?」
「どこにもないですね!」
「本当に?」
「はいっ! キレイさっぱりありません!」
アンナが別の帳簿を手に取った。
「あっ、お嬢様! こっちは実際の配布記録ですよ!」
そこには、貧民街や孤児院へ配られた薬草石鹸の記録が並んでいた。私は数字を高速で追っていく。
「孤児院に100箱。貧民街の診療所に200箱。それから……」
ぱらぱらとページをめくる。
「……合計500箱」
「500箱?」
「ええ。500箱は、すべて配布済みね」
「全部ですか!?」
二人で書類から顔を上げる。倉庫の棚には、石鹸工房のマークが焼き印された木箱が積まれていた。アンナが、一つ目の蓋をパカッと開ける。
「……空っぽですね!」
次の箱。
「こっちも!」
さらにもう一つ。
「ぜーんぶ空っぽですよ!」
受領――500箱。配布――500箱。在庫――ゼロ。
「ということは……」
私は、ゆっくりと台帳を閉じた。
「この神殿が受け取った石鹸は、500箱だけよ」
「じゃあ……皇宮の帳簿に書かれていた、あとの1000箱は……!?」
「その1000箱は――少なくとも、この神殿には一度も届いていない」
コメント
1件
ひよりさん、第20話楽しく読ませていただきました! ソフィア様の「神殿へカチコミよ!」からの颯爽とした調査シーン、めちゃくちゃ痛快でしたね。アンナとの掛け合いも軽快で、二人の息の合ったコンビ感が伝わってきました。そして台帳の数字のズレ――「500箱しか届いていない」という真相に辿り着くまでの手際の良さ、読んでいて気持ちよかったです!残り1000箱はどこに消えたのか、続きが気になります🌷