テラーノベル
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「完全に黒じゃないですか!」
「証拠をきっちり確保するわよ」
「はいっ! 映像魔石で、ばっちり撮っちゃいます!」
アンナが小さな映像魔石を取り出し、淡い光をかざす。
500箱しか記録されていない受領台帳。500箱すべてが配布済みになっている配布記録。そして――中身の残っていない、空っぽの木箱。
次々と記録していく。
「よしっ、撮影完了です!」
「ご苦労様」
***
地下倉庫を出て、神殿併設の診療所へ向かう。その途中。目の前に広がった光景に、思わず足が止まった。
痩せた子ども。絶え間なく咳き込む病人。まだ十分働けそうな若者まで、無料配布のパンを求めて力なく列に並んでいる。治療と食料を求める人々は、神殿の外まで延々と長い列を作っていた。
「……うぅ。みんな、すごく辛そうですね……」
いつも明るいアンナの声も、今だけは沈んでいる。
「ええ……」
診療所へ足を踏み入れる。
「次の方、どうぞ」
そこには、休む間もなく患者を診続けるシェリーの姿があった。額には、うっすら汗が滲んでいる。それでも嫌な顔一つせず、苦しそうな子どもの前へしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですよ。すぐに楽になりますからね」
優しく微笑み、額へそっと手を添える。
「痛いの、痛いの――飛んでいけ」
指先から、柔らかな若草色の光が溢れ出した。
(シェリーの治癒魔法……セイント・オーラね)
光に包まれた子どもの表情が、みるみる和らいでいく。
「……もう、痛くない!」
「まあ、よかった」
シェリーが嬉しそうに笑った。
「おおっ!」
「さすが聖女様だ!」
「ありがとうございます、シェリー様!」
歓声が沸き起こる。けれどシェリーは休むことなく、次の患者へ向かった。
(……すごい)
(これだけの人数を、一日中治療してるの?)
(やっぱり、ゲームで描かれていた通りの聖女なのね)
(カイル殿下が、彼女こそ皇太子妃にふさわしいと思っていたのも……少し分かる気がする)
「妃殿下」
近くにいた神官が、誇らしげに声をかけてきた。
「こちらでは、聖女様のご提案で衛生改善にも力を入れております」
「衛生改善?」
「はい。皇宮からいただいた薬草石鹸を無償で配り、手洗いなどの衛生指導も行っております」
「……すべて配ったということ?」
「はい。今年いただいた500箱は、すでにすべて」
神殿の台帳とも一致している。
私は診療所の窓から、貧民街の通りへ目を向ける。今日食べるものがない人に、今日のパンを配る。それは絶対に必要だ。病気の人を、今日治療することだって必要。
シェリーがしていることを、否定するつもりはない。でも――。
(明日も、明後日も、その次の日も)
(誰かに恵んでもらわなければ生きていけないままなら……この人たちの暮らしは、何も変わらないわ)
仕事を求めながら、パンの列に並ぶ若者たち。学校へ行けず、路地で遊んでいる子どもたち。
そして――。治安悪化によって商会が撤退し、放置されたままの巨大な空き倉庫。
「お嬢様? どうしたんですか?」
「…………」
私は、倉庫をじっと見つめた。
(この場所――)
(何かに使えそうね)
そのとき、切羽詰まった声が響いた。
「聖女様……!」
列の中にいた母親が、泣きそうな顔でシェリーへ縋り付く。
「先週も治していただいたのですが……また息子が同じ高熱を出してしまって……」
「まあ……それは大変」
シェリーは、子どもの手を優しく握る。
「大丈夫ですよ。もう一度、診せてくださいね」
「聖女様……ありがとうございます……!」
(こんな環境だもの……)
(一度治っても、また体調を崩すこともあるわよね)
そう思った――。まさに、そのときだった。
若草色の光の中心に――見えたのだ。澄んだ水へ、黒い墨を一滴落としたような。どす黒い、不気味な揺らぎを。
「……え?」
思わず瞬きをする。もう一度、目を凝らした。けれど――。そこには、清らかな若草色の光しかない。
(……今の、何だったの?)
(どうして一瞬だけ……あんなに濁って見えたのかしら?)
(……気のせい、よね)
コメント
1件
うわああ第21話!めっちゃ面白かった😭💕 シェリーの聖女っぷりが眩しすぎて、同じ女としてちょっと嫉妬しちゃうレベル…!でも最後の“黒い揺らぎ”がめっちゃ気になる…!絶対気のせいじゃないよね?!😳 貧民街の描写もリアルで、ただの聖女賛美じゃなくて「根本的な解決」を考え始めた主人公の視点にグッときたよ…!次回が待ち遠しすぎる🌸
花月夜れん
1,212
ひより
1,166
百はな🍑
4,538