さくらが走り抜ける中、陽斗は確かに少し戸惑ったように見えたが、すぐにその表情を引き締め、集中して走り出す。
「ふっ、俺が負けるわけないだろ。」
陽斗の胸の中にも、さくらが無事にバトンを渡してくれたことへの安心感と、同時に心の中で芽生えた小さな期待があった。自分が走りきることで、さくらの思いにも応えなければならないと思っていた。
バトンを受け取ると、陽斗は一瞬だけさくらの笑顔を思い出す。あの笑顔が少しだけ心を温かくしたが、すぐにその感情を抑え込むように、足を速く動かし始めた。
「さくら、待ってろよ!」
全力で走り、ついには最終コーナーを曲がる。後ろのチームが迫ってくるのを感じるが、陽斗はそれを気にせず、自分のペースを保ちながらゴールへ向かう。
ゴールが近づいてきたその時、陽斗はさらに加速した。風を切る音が耳に響き、足元の地面が速く過ぎ去る。
「絶対に負けない!」
ゴールラインを越え、陽斗は最後の力を振り絞って走り切った。息を切らしながら、振り返るとさくらが笑顔で走ってきた。
「すごかったね、陽斗!」
「お前もな。」
陽斗は少し照れくさそうに言い、さくらの無邪気な笑顔に思わず目をそらす。だが、心の中では確かな勝利感が広がっていた。次は、さくらにちゃんとその笑顔を見せてあげたいと思った。
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