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夕暮れの駅は帰宅を急ぐ人々でざわめいていた、改札口の喧騒の中、突然聞き覚えのある声が響いた
「晴美!」
振り返ると、そこに立っていたのは康夫だった、かつての彼は、ニュースキャスターとしてスポットライトを浴び、いつも洗練された華やかなスーツにキリッと整えた髪型で、街行く女性の視線を集めていたものだ
しかしミネラルウォーターの営業マンに転職した今の康夫は、グレーのスラックスに紺色のフィールドジャケットを羽織り、片手に使い込まれたアタッシュケースを提げている
ハンサムな顔立ちは変わらないが、どこか親しみやすい雰囲気が漂っていた、少しやせた頬に、5年の歳月が刻まれているようだった
「まあ! 康夫! 久しぶり! こんな所で偶然ね!」
晴美は驚きながらも明るい笑顔で応じた、彼女の声は福祉課で市民と向き合う時と同じ、温かく力強い響きを持っていた、康夫はアタッシュケースを脇に置き、照れくさそうに笑った
「この辺のクライアントに営業に来てたんだ、いや、ほんと、まさか会えるなんて! 偶然だな!」
彼の視線が晴美に注がれる、五年ぶりに見る彼女は、以前より痩せて、結婚していた時よりも、もっと輝いているように見えた、シングルマザーとして3人の子供を育て、福祉課の主任としてバリバリ働く晴美・・・その自信に満ちた笑顔に康夫の胸は思わず高鳴った
―晴美・・・綺麗になった―
「康夫、毎月養育費をきちんと振り込んでくれてありがとう、とっても助かってるわ」
晴美は少し照れながら、でも真っ直ぐに感謝を口にした、康夫は手を振って笑った
「何を言うんだ! 俺はただ、当然のことをしてるだけだよ、君の方が大変だろ? 子供達は元気か?」
「ええ! とっても! あの狭いアパートでひしめき合って暮らしてるけど、みんな元気よ!」
晴美の笑顔はまるで夕陽のように温かかった、その眩しさに康夫は一瞬言葉を失って、うっとり彼女を見つめた
―この笑顔を昔はもっと近くで見られたのに―
「あっ、あのさ!」
康夫は少し慌てて話題を変えた
「今度の日曜、正美からLINEが来てさ、映画に連れてって欲しいって言われてるんだけど・・・いいかな?」
「もちろんよ! 助かるわぁ~♪」
晴美は目を細めて答えた、彼女の声には子供達を思う母親の優しさが滲む。、康夫は一瞬、言いかけた言葉を飲み込んだ