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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第83話 〚話さないという選択肢〛(澪視点)
昼休み。
教室の隅で、
澪はノートを開いたまま、文字を書いていなかった。
前の席では、
えまが笑っていて、
しおりとみさとが何かで盛り上がっている。
りあは、窓の外を見ながら、ゆっくり瞬きをしていた。
——いつもの光景。
なのに。
(……言うべき、なのかな)
澪は、胸に手を当てる。
「想像しないためのルール」
海翔には話した。
ちゃんと聞いてもらえた。
怖がられなかった。
否定もされなかった。
(でも……)
仲間に話すとなると、
話は変わる。
えまは、心配しすぎるかもしれない。
しおりは、理屈で理解しようとして、逆に混乱するかもしれない。
みさとは、黙って受け止めるけど、目が優しすぎる。
りあは……たぶん、全部自分のせいみたいに考えてしまう。
(守りたい)
でも同時に、
(隠したくない)
澪は、シャーペンを強く握る。
——話すことは、助けを求めること。
——話さないことは、独りで背負うこと。
どっちも、間違いじゃない。
「澪?」
えまが、振り向いた。
「さっきから、全然書いてないよ」
澪は、はっとして、笑おうとする。
「あ……うん」
「ちょっと、考え事」
えまは深追いしない。
「そっか」とだけ言って、また前を向く。
その優しさが、
逆に胸に刺さる。
(……この人たちには)
(嘘はつきたくない)
でも。
澪の心臓が、
とくん、と鳴った。
——今は、まだ。
予知でもない。
拒否でもない。
ただの、感覚。
(今じゃない)
そう、はっきり伝えてくる。
澪は、ノートを閉じる。
(全部話す必要は、ない)
(でも、何かあった時)
(話せる場所があるってだけでいい)
放課後。
帰り支度をしていると、
りあが近づいてきた。
「澪」
声が、少し小さい。
「……最近、大丈夫?」
澪は、驚いた。
「どうして?」
りあは、少し困ったように笑う。
「なんとなく」
「無理してる時の澪、静かだから」
図星だった。
澪は、一瞬迷ってから、言う。
「……今は」
「ちゃんと、自分で考えてる」
全部は言わない。
でも、誤魔化さない。
「だから」
「大丈夫」
りあは、澪の目を見る。
数秒。
それから、ゆっくり頷いた。
「そっか」
「じゃあ、話したくなったら」
「いつでも聞く」
それだけ言って、戻っていった。
澪は、胸の奥が少し軽くなる。
(……これでいい)
全部を今すぐ共有しなくても、
信頼は、もうそこにある。
澪は、心臓に問いかける。
(話す?)
——今は、まだ。
(守る?)
——今は、それ。
澪は、静かに決めた。
このルールは、
必要になった時に、
必要な人にだけ、話す。
それは、逃げじゃない。
自分で選んだ、
“順番”だった。